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文鳥

作者: カジキ

鳥を一週間、預かることになった。


小さな文鳥を一羽。


生き物を飼ったことなど無かったが、世話の要項と注意書を綴ったメモを渡されたので、


まあ、


どうとでもなるだろう。



1日目




朝、早めに起きて鳥用の餌と飲み水、水浴び用の水を変えてやる。


私は朝は弱い。


特に、冬は。




それでも、生き物を預かった責任としてやらねばなるまい。


餌と水を変えてやり、自らも朝食を摂る。


その間、奴は別の部屋に置いておく。


奴は餌を散らかして食べるのだ。こちらに飛ばされでもしたら敵わん。


だが、


奴は私の姿が見えなくなると、キーキーと鳴きだすのだ。


聞くところによると、


どうやら、奴はまだ幼く、寂しがり屋だと言う。


ストレスで具合を悪くされても始末が悪いので、仕方なく側に寄せ、食事を摂ることにした。


餌のにおいなのか、鳥のにおいなのか、何やら獣臭い。


少し不快だ。




食事を終え、奴を観察してみると、あまり食べていない様だ。


環境の変化からか、それとも、もともとなのか知らないが、良いことでは無いだろう。


そこで、メモをよく読み返してみると、菜っ葉を与えろと書いてあった。


菜っ葉を与えてみると、驚くほど貪り食いついていた。






食後は運動も大事だろうと、ケージから出して遊んでやった。


噛み付いたり、所構わず糞をしたり、


構ってやろうとすればそっぽをむき、


放って置くと飛び乗って来たりする。




鳥と云う生き物は厄介だと思った。



2日目




今日もまた朝起きて、餌と水をやる。


昨日のことから、朝食は鳥の近くで摂ることにした。


二日目にして既に、においには慣れた。


奴は今日も食事が進んでいない様だ。


私はもどかしくなり、直接手でやってみた。


奴は何の躊躇もなく突いて食べた。


人には大分慣れている様だ。


ペットショップで痩せ細って死にかけていた、と聞いていたものだから、以外であったのと同時にそれだけ一人が嫌なのだと、


そう、


推測した。



3日目




今日は少し寝坊した。


鳥は暗くすると寝ると聞いていた。


だから、寝かしつける時はケージに毛布をかけ、暗闇をつくって寝かしつけていた。


なので、まだ寝ているかと思ったが、


また、キーキーと鳴いている。


毛布の隙間から光が入る様だ。


とりあえず、今日も餌と水をやり、私も朝食を摂った。


今日は鳥の好物だという蜜柑をやった。


鳥は貪り食っていた。




食後、鳥をケージから出し、運動させた。


最初の頃より少し重くなった様な気がする。



4日目




今日も餌と水をやった。


ケージから出し、運動させようとしたが、鳥は私の指の上で腰を落ち着け、眠ろうとしていた。


案外、図太いのかも知れん。


指に触れる羽毛が気持ちよく、体温がとても温かい。


撫でてやろうと指を出すと、噛み付いて来た。


とても痛い。


触るのは良いが、触られるのは嫌らしい。


勝手な奴だ。



5日目




今日も餌と水をやった。


飯は食うようになったが、あまり水を飲んでいないような気がする。


指に水をつけて嘴に近づけると、その雫を飲んだ。


世話が焼ける奴だ。




本当に。



6日目




今日も飯と水をやった。


こいつは飯を食った後、嘴を何かで拭くという仕草をする。


指の上で食わすと、人の指で嘴を拭くのだ。


まったく、どこまでも図太い奴だ。



7日目




今日で最後。


やっと世話から解放される。


飼い主がやって来て、


とっととあいつを持って行った。




これで清々した。


もう、朝に頑張って起きることも、


餌を散らかされることも、


糞をされることも、


水浴びのたび雫を撒き散らすことも、


噛まれることも、


少し離れただけで、立ち上がっただけで寂しそうにキーキー五月蝿く鳴くことも、


指に飛び乗って来ることも、


手から餌を食べさせてやることも、


一緒にいてやることも、


全て無いのだ。




もう二度とあいつと会うことも無いだろう。


あいつもきっと、私のことなどすぐに忘れるに違いないのだから、


だから、


きっと、


寂しくなど無いのだ。


きっと。



後日




朝、目が覚めた。


起きなければ、と思い、必要無いことを思い出した。




部屋の中を歩くと、足元にジャリっとした感触があった。


見ると、鳥の餌だった。


掃除が甘かったようだ。




ふと、鳥のにおいがする。


布類に染み付いているのかもしれない。




腹が減り、冷蔵庫を物色する。


菜っ葉だ。


私は食べない。




デザートでも、と蜜柑を手に取る。


あいつが好きだった。


そっと、置いた。






ふとした時に思い出す。


これもいつか薄れていく記憶と感覚である事が、


何と無く、手放しがたかった。


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