病院を抜け出した僕。
廊下を駆け出し僕、広い病院だなあ。なんて走りながら物思いにふけていたら。ああ、やっぱり予想通りの展開に。
僕の目の前に、ナイフを手にした殺人看護師が現れた。
「あんた。あんたあんたあんた。何者何者何者? ただの変質者? 院長はどうした。どこにいる。教えろ教えないと、痛い目みるぞ。具体的には血を見るぞ」
僕は焦った。だってこの女尋常じゃない。やばさを隠そうともしない。もう本当によくここまで看護師を続けられてきたもんだよと思った。というかそもそもこいつ看護師なのか。ただの看護師のコスプレをしている殺人者じゃないのか? 院長の愛人の権限を使って看護師に偽装しているんじゃないか? もしこいつが本当の看護師だったら何故こんなことをするのだろうか。なぜこんな狂気に身を委ねるのだろうか。僕には分からなかった。こんな異常な女だったらすぐに皆気づくはずだと思ったからだ。もしかしたら今までこの女は我慢をずっとしてきて、我慢を重ねて来ていて、ダムが少しのひび割れで崩壊するように、一気に感情が崩壊して、今日に至ったのかもしれない。しかしそれもあくまで僕の推測だ。そしてそんな推測を僕は呑気に今ここでしている暇なんかはない。考えるとしたら、この危険な現状況を打破してから考えればいいだけだ。さあ、どうしようか。
僕は今、赤ちゃんから大人に変身している、つまりどういうことかというと、おぎゃー、という泣き声以外に言葉を喋ることが出来るということでもある。しかし、彼女を諭そうとしてもそれは彼女のあの雰囲気から不可能というのは容易に想像できた。だから諭すのはやめだ。むしろ諭そうとすれば、彼女を興奮させ、猛獣のように、僕に襲い掛かってくると思ったからだ。そこで僕は彼女にこう言った。
「院長は、今、僕の攻撃によって気絶していて、ひん死の状況だ。このままでは危険だと思うよ」
「てめえ」
予想通り彼女は、感情をむき出しにした。しかしそれは院長に対する心配の感情だと思われた。なぜならば彼女の顔がどこか血の気が失せているからだ。院長の愛人もしくは奥さんであると思われる彼女なら、それは当然のことと思えた。
殺人看護師は、廊下をこっちへ向かって走り出してきた。
しかし、その目は僕を見てはおらず、医院長が倒れている、部屋の方へと注がれていた。
僕は少し安心した。
これで、助かる。しかし、そう思っていて気を抜いていたら、すれ違う瞬間、何やらキラリと光る物が見えた。
「なっ!」
そう、殺人看護師は僕とすれ違う瞬間、僕を見ないまま、ノールックで僕の首筋にナイフを一閃しようとしたのだ。
「ま、間に合わな……」
このままでは殺される。そう思った僕は変身を解いて、赤ん坊に戻った。
赤ん坊に戻ることによって、僕はナイフの刃の軌道を回避して、床へと仰向けになった。
それを見ていた殺人看護師が立ち止った。
「な、何なんだよてめえは……」
カラン!
殺人看護師はナイフを床へと力なく落とした。
僕はすぐさま、再び大人へと戻ると、裸のまま彼女と向かった。
「僕は、赤ちゃん。まだ生まれたばかりの、捨てられた赤ちゃんさ」
彼女は意識を失ってその場に倒れ込んだ。倒れ込んだ拍子に落ちたナイフに刺さるということはなかった。
僕は、落ちたパンツ、下着、白衣を順番に着ると、最後にネクタイを締め、外へと飛び出した。眩しい斜光が僕の顔に降り注ぎ、そして遠赤外線効果で体がぽかぽかするのを僕は感じた。




