願い三つ目が叶えられた僕。
「えっ? 大人になりたい?」
「は、はいそうです。とは言っても常に大人になりたいというわけではないんです。ちょっとした時だけ、限定的に大人になりたいということなんです」
「何それ。心は子供、体は大人みたいになりたいの?」
「まあ、そんなところです」
「ふうーん。名探偵を目指しているのね?」
「何のことです?」
「あら違うんだ。じゃあ、一体あなたは何を目指しているの? どこにゴールを設定しているの? 何の目的を持っているの? ああ、分かったわ。あなたの意図が。やりたいことが。あなた大人になって、そういった、いやらしいお店に入りたいんでしょう。でもあなたお金ないわねよ。それに身分証もないしそれはどうするの? ああ、そうか。お金は明日に私への願いで大金を手に入れるつもりなのね。そして次の日は、身分証明書を私の願いで発行するつもりなのね。考えたわね。赤ちゃんの癖に」
「何勝手に話を進めているんですか。違いますよ。違います。僕が大人になりたいのにはちゃんと訳があります。昨日あんな事件があったじゃないですか。あやうく僕は病院で殺されるところでした。そしてまだ僕の危機は完全に去ったとは言えません。なんせ院長と看護師はできているんですからね。だからこのまま赤ちゃんのままだと、また同じようなことが起きた場合、今度は助かるとは限りません。昨日は首を絞められたから何とか助かりましたけど、今度ナイフかなんかで刺されたり、あるいは毒を盛られたりしたら、夢を見るまもなく、また見たとしても、願いを叶える前にタイムオーバーで死んでしまうでしょう。そうならない為に、僕は大人になる必要があるのです。大人になって自分の足で歩くことが必要なんです。それが僕がこれから生きて行く為の第一条件だと思います。そして先ほど、女神さんが言った通り、その後、お金とか身分証を、女神様に願いで叶えてもらうつもりです。もちろん明日以降ですけれどね。
「ふーん。そういうことか。で、今日の願いは一体何?」
「ちゃんと僕の話、聞いてました!?」
「うん。聞いてた聞いてた」
「大丈夫かなあ……」
僕はおとぼけ天然女神に、猛烈に不安になった。
「と、冗談は置いておいて、今日の願いは大人になりたいということよね。期間限定で」
「あ、そうなんですけど。ちょっとだけ違います。具体的には、自分の意志で大人になれて、そしてまた自分の意志で、赤ちゃんに戻れるということです」
「ややこしいわね。というより、あなた説明不足だし、説明が下手よ。相手に自分の意図を伝えたいならば、もっと相手にちゃんと自分の思っていることを、思っているイメージを伝えられるように努力しないとだめよ。間違って伝わっても責任は取れないからね」
「分かりました。努力します」
確かに何でも叶えてくれるというのだから、ミスがあってはだめだ。もし間違えて、例えば、サメに乗ってみたいとか言って、自分では安全を確保された状況をイメージしていても、それを伝えていないで、女神様に伝わっていなくて、安全も確保しないままでサメがいる海にでも放置されたりなんかしたら、それこそ終わりだ。そうならないように。もっと具体的に、女神様がちゃんと分かるように願いを自分のイメージ通り確実に伝えなくてはならないと僕は思った。
「じゃあ、自分の意志で大人にも赤ちゃんにも戻れる能力が欲しいのね」
「はいそうです」
「でも、大人っていっても色々いるわよ。それはどんな大人なの? 自分の将来、順調に育った場合の姿を予測して変身するの? あるいは全く別の人間の大人に変身するの? 男に? 女に? それともその中間に? あるいは別の星の生命体の大人に変身するの?」
「ち、違いますよ。普通の僕の順調に育った場合の大人に変身差せて下さい。別の人間だったり、女だったりに変身できるようにするのはまた今度にしたいと思います」
「ふーん。でもだったら、分ける必要なんかなくない? 最初から自由に色んな人間の大人に変身できるようになりたい! でいいじゃない。それだったらあなた自身の大人にも変身出来るし」
「そ、そうですね。でもまだ僕変身したことなんてないから、不安でしょうかないんですよね。だからまずは僕自身の大人に変身出来るようになってから、それに慣れて来てから別の人間の大人に変身できる能力を身につけたいな、なんて思っています」
「そう、あなたがそういうならそれでいいわ。私は願いを叶えるだけの女神ですからね」
「ありがとうございます」
「いいのよ。では開始するわね!」
女神は言うと、またしても背中から杖を取り出し、宙の空間を杖でふりふりと、まるで絵を空間に絵を描くかのように振った。
「彼が自由に自分の大人になれますように!」
僕の周りは光に包まれた。
「はい、終わったわ。じゃあね」
女神は願いを叶える作業を淡々とした動作で、でもどこか嬉しそうにしながら終えると、来た時と同じく、階段を上って、建物内の壁の中に消えて行った。




