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日本鬼子異聞  作者: 国防省 ◆Oppai.FF16
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第8話・温まる旧交


「おおう、朝早くにスマンな、ケン!」

「No! ちょうど起きる時間さ、気にスンナ!」

「そうか? それかなりウソだろ、無理すんな!」

「……何故分かるwhy? まさか読心術でも始めたのかイ?」


 起きぬけの筈なのにこのハイテンション。

 そういやこんなだったな、とケンと一緒にいた高校生の頃を思い出して気合を入れ直す。


「実はな、我が国は先日、世界に先駆けて“時差の再発見”に成功したんだよ」

「ワァオ! そいつは凄いなボブ!」

「誰がボブか」

「それで車輪の再発見はいつヨ?」

「逆行してどうする!」


 あっさり主導権を握られる。こっちから電話したってのに!

 やはり肉が主食の国には敵わないか?


「で、最近調子はどう? 転職したんだっけな、確か、えーっト」

「ハウスキーパーだ」

「そそ、そのメイドさん。ミニスカですね毛まる出しで『おかえりなさいませご主人様~』つってドゲザするオシゴト!」

「ちげーよ! なんだよ土下座って! 別荘とかの管理人だ!」

「え~っ、その後ご主人様を押し倒して顔をピンヒールで踏むとかじゃないノ?」

「おい、趣向が変わってるぞ。……まあそれは兎も角」


 もうそろそろ目が覚めただろう。


「実は緊急で相談に乗って欲しい事があるんだが、いいか?」

「よし、いいぞ」


 相変わらず切り替えが早い。電話を通じて空気が張るのが分かる。


「とは言っても長い話になるので、書いておいたメールを送る。だからPCを」

「だと思って既に起動ボタンは押してある。OSが……今立ち上げ完了した」


 やはり流石だ、これなら相談しても。……って何か横の方が明るく?


「すまんな、衛星電話のバッテリーが心許なくって……」


 言いながら横を見ると、LANケーブルを玩んでいるあやかしの幼女が光っていた。

 いや、光っていると言うか、丸い光に包まれている。

 気になって見た蝋燭は、放つ光を幼女の丸い光が吸い込んでおり、蝋燭の残量も残り1センチほどに急減していた。

 そしてその所為なのか、電話機のバッテリーが全回復していた。……ノートPCのも。


「残量はどの位だ?」


 気遣わしげなケンの声。しかしこれなら。


「あ、いや問題無い。メールも今送信した」

「そうか、って、もう来たぞメール」


 早いな。それに電話の時差も?


「それと電話の感度も良くなった様だな。本当に時差の再確認を?」

「バカな。いや、幼女の方の妖が光ってて、それで」


 幼女は相変わらず丸い光の中で、PC用のLANケーブルを、触らずに空中で様々な形にして遊んでいた。


「あやかし? ようじょ?」

「あーすまん、まずメールを読んでくれ」


 頭が変になりそうだ。物には干渉出来ないんじゃなかったのか?


「ああ、そうする。……では電話はこのまま?」

「繋ぎっぱなしでいてくれ」


 ネット関連に強い妖なんだろうか。やはり副業で怪しい事とかやってるんだろうか?

 と思ったところで、門の外で虚空を凝視していた少女の方の妖が縁側に戻ってきた。

 少し急いでる感じだ。


 昔の時代劇のように、蝋燭の火に顔と片手を近づけ、吹き消そうとする。

 しかし火はピクリとも揺らがない。

 少しムッとした表情になる。


 熱いのを我慢して芯の根元を摘んでやる。消えかける火。反対に明るくなる表情。

 指を離す。再び点く火。驚いた表情。

 肩を竦めて見せると、さっきより更にふくれっ面になる。

 その百面相に思わず笑ってしまった。


 からかう人はキライです、という感じで他所を向く少女。

 その視線の先には幼女とPC。


「ああ、すまんすまん、ほら消したから」


 一気に吹き消した。

 それでも月明かりと幼女の光で、周囲は何とか見渡せた。


「バースデイパーティーでもやってるのか?」


 しまった、電話機を握りっぱなしなのを忘れていた。


「いやスマン、少女の方の妖が戻って来てな」


 見ると、少女は幼女と向かい合わせでLANケーブルを掴んでいた。

 ケーブルから光が溢れ、彼女らの体に流れ込んでいく。


「もしかして、その妖の大きい方は、16歳から18歳くらいの日本女性か?」

「いや、俺の見たところでは14歳くらい……」


 そして、少女の体と着物が少しだけ大きくなった。加えて僅かに光も帯びた。


「ああ、いや、17歳前後になった、今」

「今、なった? やっぱり誕生日……いや、頭に小さな角が有って着物は赤い紅葉柄ではないか?」

「ん? よく分かるな、その通りだ」

「なっ、なんということだ……」


 ケンが絶句。

 この着物に何か意味があるのか?


「おいケン、なに一人で納得してるんだよ? 俺にも分かるように……」

「地球の裏側に居る親愛なる友よ、いますぐ其処から離れるんだ!」


 ケンの口調が急に切羽詰ったものになった。


「いや、だから車は使えないし、役場の人間はおそらく山の麓で待ってるだろうし」

「裏山があるだろう、そこに逃げ込め!」

「何を焦ってるんだ? 明日の朝になれば役場の人間が来るだろうから適当に……」

「いや、多分そろそろ来るだろう。そしてそれは、タケが考えてるのよりもずっと怖い

奴の筈だ」

「何故そう思うんだ?」

「その大きい方の妖は、間違いなくヒノモトオニコだからだ」


 ヒノモト? 何処かで聞いたことがある様な……


「彼女は虎と敵対している。その彼女が居るという事は、其処へ来る人間も虎と同じ目的を持っている筈だからだ」

「トラ? 動物の虎のことか? それが何……なんだっ!?」


 俺の前に立った少女(いや、ケンが言うところのオニコか)から紅い光が溢れ出す。

 そして、両手を胸の上で重ねて目を閉じ、軽く俯いた。


(先ずは(いぬ)の埋葬のお礼を申し上げます)


 な、なんだこの声? 直接頭の中に響いてくる様な!


(そして、間もなく狗を追っていた者達が来ます。危険ですから貴方はここから動かないで下さい)


「おい、キミは何を!?」

「YOU! Hey!!」

「~~~……!!」


 ケンの怒鳴り声で左の鼓膜が破れそうだった。

 あ、という事は。


「ケンにも聞こえたのか? 今の」

「ああ! オニコは綺麗な英語をしゃべるんだな! 驚いたよ!」


 英語? 完璧な日本語じゃねーか、と言おうとしたところで。


「!!……本当にお出でなすったようだ」


 山から集落の入り口辺りに出てくる車のヘッドライト。エンジン音も微かに聞こえる。

 無粋な、という表情で門の方を見るオニコ。


(これより散らして参ります)


 言い残して、滑る様に門の外へ走り去った。


「よし、俺も……」


 そう言って立ち上がろうとしたところで、幼女にブルゾンの端を掴まれる。

 よく見ると、涙目になって首を左右に振っていた。行くなと言うのか?


「門からは出ないよ」


 PCと電話を持ち、衛星アンテナを動かさないように注意しながら門まで移動する。


「…………!」


 幼女が何か言ってるようだったが、面倒なので一緒に抱えた。ほとんど重量を感じない。

 庭先に置いてある衛星アンテナから門までは、ケーブルがぎりぎり届いた。

 庭が雑草だらけでなければ余裕だったろうが。


「おい、タケ」


 門の横にしゃがみ込む。何故か門扉は無くなっていた。


「あいよ」


 リュックサックから暗視ゴーグルを取り出し装着する。

 まさかこんな荒事に使う羽目になるとは。


「何が見える?」


 追っ手は車3台。みな同じ大きさだ。


「あれは軽トラが3台だな。いま150m前で止まって降りてきた。全部で6人だ」


 別の家の庭に止まった。

 そして荷台から何やら長いものを下ろし始めた。


「そいつらは武装してるか?」


ゴーグルをズームアップする。あれは……猟銃?


「ああ、少なくとも3丁のショットガンを持ってる」


 更に、荷台の上で、天井に付けた何かを調整し始めた。

 あれは形状からしてパラボラアンテナか。


「いきなり突っ込んでこないところを見ると、そいつらはある程度軍事的な訓練を受けて

る様な気がする。危険だな」


 荷台の上の奴以外の5人が、その家の玄関辺りを叩き始める。


「離れたところにある家に突入するようだ」

「先ずは拠点の確保か」

「いや、なんか様子が変だ」


 まるでその家が目標であるかの様な動きに見え……あっ!


「オニコが接触!」


 5人の前に立つオニコ。何かを両腕で抱えているような姿勢だ。何も無いが。

 5人は……何やらにこやかにオニコの両手の上から取り上げてる。何も無いが。

 そして、美味しそうにそれを食べ始めた? いや、何も無いんだが。


「おいタケ、接触してどうなった?」


 小脇に抱えていた幼女が、身をよじって此方を見上げる。

 問題無いという風な笑顔で。


「ああ、奴ら何か食ってる」

「そして腹ごしらえか。これは本格的に軍事の……」


 そして五人が次々に倒れた。

 それを見て、荷台に残ってた一人が猟銃をオニコに向けた。何やら叫んでいるようだ。

 そして撃った。2発!


「おい、タケ!?」


 オニコにはまるで効いてないようだった。

 そして虚空から長物を取り出し、その男を薙ぎ払った。

 距離的には届かない筈だが、その一撃で最後の一人も倒れた。

 あの長物は薙刀か? もしそうだとしても、頭に“異形の”を付けねばならんだろう。


「……!!」


小脇の幼女が急にむずがりだした。降ろしてやる。


「今のは銃声じゃないのか!? やはり裏山に逃げろ!」

「あっ!!」


 パラボラアンテナが付いている軽トラの運転席あたりが光り、その中から金色の大きなものが飛び出してきた。

 あれは……虎? それも俺の車と同じ位の大きさの。

 後ろに飛び退き距離を置くオニコ。彼女にとってもこれはヤバい相手のようだ。

 間合いを計る動きになったところで、同じ場所からもう一体虎が出て来た。


「くっ、卑怯な! ……って?」


 幼女がブルゾンの端を引っ張っていた。オニコのところへ連れて行け、という風に。


「? タケ、この状況で卑怯もなにもないぞ」

「む……よし、行くか」


 詳しいところは不明だが、今は役場の人間よりも、謎の巨大な虎よりも、この妖二人を助けなければならない様な気がした。

 それは焦燥感にも似た、矜持に根ざした使命感みたいな何かが有って。


「おいタケ、行くって何処へだ? 現状を報告しろ!!」

「ケン、すまんが電話を切るぞ」


 ゴーグルを外し、リュックに仕舞う。


「ちょっと待てタケ! それはお前が行かなきゃならない事なのか!?」


 義を見てせざるは勇無き也。俺はオニコに“義”を感じたのだ。


「命があったらまた連絡する!」

「タケ! おい……」


 電話を切った。ケーブルも外した。


「……行くぞ」




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