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日本鬼子異聞  作者: 国防省 ◆Oppai.FF16
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第7話・おむすび

 瓢箪から駒、か。

 まさか犬に追っ手がかかっていたとは。何でも聞いてみるもんだな。

 多分に胡散臭い感じだったが。


 屋敷の裏門から納屋に戻る。妖二人はまだ犬の傍らに佇んでいた。

 その二人の目が少し輝く。


「これで弔ってやってくれないか」


 裏山から採ってきた山花を犬の周りに置く。

 ツワブキやコスモス、さざんか、その他名も知れない草花。かなりの量だ。

 どうだ? と見ると、二人とも服が巫女のそれに変わった。

 まるでアニメキャラが変身するように。


「便利だなおい」


 少女から促されるままに、ブルゾンのポケットに挿していた(サカキ)の枝葉を犬の前に置く。

 何故神式になると思ったかは自分でも謎だが、多めに採ってきていた。

 自生の榊なんて初めて見たが。まあ生えてて良かった。


 二人は犬の前に正座し、何やら祝詞のようなものを奏上し始めた。

 いや、口の動きが見えるだけで、声は聞こえないのだが。

 そして、その真剣な横顔の向こう、納屋の奥に鍬やツルハシが有るのが見えた。

 かなり錆びてるが、まだ充分使えそうだ。


 屋敷の裏門と山の間が、ちょっとした空き地になっており、その山側の端に幾つかの大きな岩が置いてある。恐らく、農作業用の家畜をここに埋葬していたのだろう。

 あとは墓石になるものがあれば。


 その場を辞し、屋敷の外を見て回る。


 空き地の周囲を探した後、その端に下へ降りる小道を見つけた。

 何かないかと、両脇から茂る雑草をかき分けながら降りてみる。

 50メートルほど降りたところで、急に視界が開けた。


 そこは谷川の河原だった。しかも広い。


 周囲から山が迫っているので、こんな場所があるとは少し意外だった。

 しかもその降りたところだけが大き目の石が敷き詰められたような平らになっており、これならちょっとしたヘリポートとしても使えそうな状態だった。


 ああ、ひょっとすると、まだこの集落に人が住んでいたころに、マジでヘリポートとして使っていたのかもしれない。急患が出た時などの為に。


 そこから適当な石を拾って空き地に戻った。

 青黒く斜めに縞模様の入った、一抱えほどの大きさの。

 これを墓石にしよう。


 納屋に戻る。

 二人はまだ犬の傍に居たが、既に式は済んだようだ。

 犬の前に座り、残しておいた最後の榊を、先が自分の方を向くようにして犬の前に置く。


「向きはこれで良かったか?」


 少女がうなずく。幼女は犬を見つめたままだ。

 そして二礼二拍手一拝(一礼なのかもしれんが)を、忍び手(音を立てない)で行う。

 それでこの場の空気が緩んだ様な気がした。一通り終わったようだ。


「さて、埋葬だな」


 どうも役場の上司の言った事は胡散臭すぎた。だからその前の、担当者の言い分に従うのが良いのだろう。……それは犬にとっても。


 見回すと、納屋の奥に木の棒二本とその間をムシロでつないだ、担架の様なものがあった。

 持ってきて犬の横に置く。

 さて犬を乗せるか、と思ったところで、犬の首の長い毛の奥に赤い紐があるのが見えた。


「なんだこれ?」


 引っ張ると回り、首の下から銀色の何か大きなものが出て来た。

 それは、銃弾を模した大きな銀色のペンダント。

 先端がネジ式の蓋になっている。開けてみたところ、中からUSBメモリが出て来た。


(それは確かですか? それに類する様なもの全て?)


 役場の上司の言葉を思い出す。


「なるほど、コレか……」


 犬の満足そうな顔を見る。


「オマエのご主人様は、これをオマエに託したんだな?」


 もちろん、返事は無かった。


 …………

 ……


 犬を乗せた担架の様なものを引き摺り、裏の穴の前に着いた。

 マジ重かった。


「火葬にしてやれなくてスマンな」


 犬を穴に入れようとしたところで、ついて来た少女がそれを遮る。


「なんだ?」


 弔いに絡むことで、何かまだやる事が残っていたのか?

 しかし彼女は、俺の予想とは違った行動をとった。

 ペンダントを、紐を解いて犬から取り去ったのだ。

 そして、ペンダントから紐を抜き取り、紐を宙に浮かせて火を点けた。


 彼女らが現実の物に干渉するのを初めて見た。

 燃えた灰は犬の体に降りかかった。なるほど、火葬の真似事なのか。

 横を見ると、幼女が少女の着物の裾にしがみついていた。半透明になって。

 それで彼女らの力の使い方が分かった様な気がした。


 少女がペンダントを差し出してくる。口を一文字に結んで。

 そういう風に集中していないと、物に干渉できないのだろう。

 実は今も辛かったのかもしれない。ペンダントが手をすり抜ける。


「おっと」


 すんでのところでキャッチ。


「俺に持っていろと?」


 首肯。

 こういうものは一緒に埋めるべきだと思っていたから、戸惑ってしまう。

 が、まあこの程度のモノなら後で埋めても良いか、と思い直した。


「分かったよ」


 緊張していた妖二人の表情が明るくなった。やはり女の子は笑顔でなければな。


 その後、犬を埋めてその上に石と山花を置いた。

 夕やけに赤く染まる、名も知らない白い犬の墓。

 安らかに眠ってくれ。


 …………

 ……


 宵闇の中、蝋燭の明かりに浮かぶ緋ノ元の屋敷の縁側。


「やはりこういう事だったのか」


 場違いに青白く光るノートPCの画面、差し込んだUSBメモリの中を表示している。

 その総データ量は220GB余り。その中にフォルダが二つ。

 一つは幾つかのテキストファイルが入っているもの、もう一つは220GB程のサイズで名前とパスワードを入力しないと開けないもの。


「寝ちまったのは失敗だったな」


 あの後、腹が減ったので持ってきていたコンビニのおむすびを食った。

 それで疲れが出たのか、母屋の縁側で寝てしまったのだ。

 妖二人は何やら騒いでいたようだったが、まるで聞こえなかった。


 その後、幼女が俺の首に何かを掛けようとしてる、そのくすぐったさで目覚めた。

 何かと思えば、新たに赤い紐を付けた例のペンダントだった。


(なるほど、軽いものは持てるのか)


 寝るのを諦め、ペンダントを首に掛けてみせる。

 喜ぶ幼女。

 その笑顔を見て、俺の9歳下の妹の事を思い出した。

 この年齢の頃はアイツも可愛かったのになあ、今ではナマイキ盛りのJKだが。


 そんな妙な感慨を振り払いつつ、車からノートPCを持ち出してきて今に至ると。


 少女は、門の外に出て何やら彼方を凝視している。

 服装は、紅葉をあしらった赤い着物で安定しているようだ。


 目覚めてすぐに、少女に車のエンジンを元に戻してくれないかと頼んでみた。

 この妖たちの仕業なのは間違いが無かったから。

 しかし、返事は困惑の表情だけだった。

 その後の少女の行動を見るに、どうも俺を外敵から守っているように見えた。


 誰か来るにしても多分役場の人間だろうが、それでもこんな夜中にはあの狭い道を上がっては来れないだろう。

 それも告げたのだが、再びの困惑の表情でスルーされた。


 その上分からないのは、むしろ俺の方が彼女らを守らなければならない様な感覚に囚われている事だった。

 いや、おそらくは彼女らの外観のせいだとは思うんだが。


 幼女の方は、外観がくるくる変わるのが止まり、巫女服のアレンジ的な感じの服に固定したようだ。

 外観が何故クルクル変わるのかは分からなかったが、


 そして何が面白いのか、PCの画面を興味深そうに見つめて、偶に画面を切り替えると、画面と俺の顔を交互に見比べては笑っている(声は聞こえないのだが)。

 そういえば俺の9つ下の妹は(略) こうしては居られない。


 PCと共に車から持ってきていた衛星電話一式をセットする。バッテリーは、時間が経った事で僅かながら回復している。

 さて、これからどうする?


 ① 幼女と戯れた後、寝る

 ② 少女と戯れた後、寝る

 ③ 二人と戯れた後、寝る

 ④ 誰が来ても、メモリは見てないと言い張る事にして、寝る

 ⑤ メモリは明日来るであろう役場の人間に渡してお終いで良いじゃん、で寝る

 ⑥ 誰が来ても渡すが、今のうちに中身を見る

 ⑦ 誰が来ても渡すが、中身をHDDにコピーしておく

 ⑧ 誰が来ても渡すが、中身を他所にコピー転送しておく


 ……①~③は論外だな。多分に魅力的だが。

 ④⑤は、結局のところ、俺の車から持ち物から全て調べまくられて、更にPCは没収されるだろう。おれが相手ならそうする。そうなると、骨折り損のくたびれ儲けになるので、これもボツ。


 ⑥は、名前やパスワードが不明なので無理。

 いや、ヒントは探そうとしたんだ、テキストファイルの方を片っ端から開いて。

 しかしそれらは、何か良く分からないプログラム用語の羅列が殆どだった。

(中に一つ、英文ながら明らかに詩と思われるものがあったが、全くの意味不明)

 で、断念すべきだろう。


 ⑦は、④⑤と同じ理由でボツ。だいいち俺のPCの空きスペースそんなに無い。

 結局、最後の発案である⑧がベストとの結論に至った。

 それなら、身の安全の保証になるかも知れんしな。

 だがしかし、220GBもの大容量をどうやって?


 …………


 幼女は、衛星電話の電話機を(もてあそ)んでいる。


「ほらほら、お兄ちゃんは今お仕事中ですからね、それ触っちゃダメですよ~」


 渋るかと思ったが、意外と素直にそれを止め、再びPCの画面凝視に戻った。

 素直な良い子だ。

 ……今ちょっと違和感を覚えたが、ま、それはさておき。


 やっぱ誰かに相談するか。だが、誰に?

 仕事絡みの人間はダメだ、迷惑がかかる。身内は以ての外。

 そこで頼りになるのが学生時代の友人。その中から出来るだけソフト関係に有能で、且つお堅い仕事に就いていて、その上で此処から出来るだけ離れたところにいる奴、と。


 脳内検索の結果、そんな無茶すぎる条件に合致する奴が一人だけ居た。


 ヒューウヒュルル ヒュルルルヒュウウウー……

 ブツッ


「……well」

「ハ、ハロウ、ディスイズタケシ・ヤマトスピーキン、メイアイ……」

「タケ! マジか!? 久しぶりだな!」

「あ、朝早くに電話してスマンな、ケン!」



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