その先に
春を感じさせる温風。たなびく草木。と言いたいところだが実際、たなびいてなどいない。
今、俺たちは謎の場所に閉じ込められている。
謎の場所とは全面が壁でできている密室だ。
しかし、壁は押せば倒れそうなのだが危険が潜んでいるかもしれないと思うと少し押す気がうせる。
壁は平面で本物の森に似させた絵が描写されている。しかも超リアルでこれを描写した人間はプロの絵描きか何かだろう。
今、俺は犬川と共にこの密室に閉じ込められているのだが、風がふくたび犬川のきれいな黒髪がたなびくのでつい直視してしまう。
整った顔、細い体を覆う和服。
そして黒くて大きな瞳。どこをとっても誰もが美少女と言うだろう。
「押して見るしかないわね」
押してみると言われても押して倒した先に何があるか分からないのに危険すぎる。
本物の森に似させたまがい物の壁は薄いが確実に俺の前に立ち塞がっていた。
「押さないなら私が押す」
「もしなにかあったら」
「もし、とか、でも、とか言っている時間があるなら行動するべし」
確かにそれぐらいしか望みがないとしても。
「大丈夫、私を信じて」
そう言って犬川は助走を取った。
「一番。いぬかわ みち十七歳、趣味は買い物」
「そんなこと言ってる暇があるなら、さっさとやれ」
近いような言葉を言ったのはお前だろと言いたかったが脳天にあの強烈なかかとおとしを喰らいそうなのでやめておいた。
犬川は薄っぺらい壁に体当り。壁はたやすく倒れた。
「意外とたやすいものね」
倒した壁の先に拓けたのはなぜか温かい空気が蔓延している風呂場だった。
犬川と俺の前には小柄な少女が一人立っていた。
「あああああ」
その体はまだ裸で胸も小さく!
「ギャーー」
俺は犬川からの目潰しを喰らった。ほんとに潰す気だろうか。
「ごめんね、ほんとにごめん」
俺たちは少女が着替えを済ましたあと、脱衣場の隣の大広間の中央にある四人座れるテーブルに移動し腰かける、俺たちの前には少女が座る俺の隣は犬川という配置で訳を話し始める。
「何であなたたちはここにいるのですか」
「さっきまで私達密室に閉じ込められてたの、そこから出た瞬間風呂場に移動してたの」
「主観的すぎて意味が詳しくわからないけど、わざとではないようですね」
「理解できたんだ今ので」
少女は茶色のパジャマに着替えていて、髪まで茶色であった。
「私の下着姿を見られたのはどうも気にくわない」
「下着だったのかよかった」
次は脳天にチョップ。すいません俺が悪いです。
「私、今旅しててこの宿に泊まらせてもらってたんですけど、あなたたちは何をしているのですか」
「俺たちも旅してて」
「その途中で密室に閉じ込められてたのよね、志乃」
俺が説明しようとしてたことを話しやがった。
「よかったら一緒に旅しない?」
「いいですけど、名前は?」
「俺の名前は鷲川 志乃でこいつが犬川 未知」
それにしてもこの子、可愛いな。犬川がロングストレートの髪に対しポニーテールだ。
「私の名前は猿吉 萌よろしくね」
俺は手を差しのべて握手しようとした、が払われてしまった。
「準備してくるから待ってて変態」
変態? 変態。変態!
「誰が変態だ!」
「自業自得よね」
また面倒くさい仲間が増えた?




