夕暮れになると憂鬱になることさえも僕らには許されない
彼女は言った。風を知りたいと。
その時から僕らの戦いは始まった。
僕らは箱に閉じ込められている。
目の前のビルも、頭上の空も何もかも箱だ。
誰かが作った箱の中にいる。いつでも箱だ。なんだって箱だ。
四角く、四角く整えられて、箱のように出荷される。
箱のようにではないかもしれない。僕らそのものが箱だ。
そして僕らはぴったりと寄り添い合う。箱と箱を並べて、面を合わせて、ぴったりとくっつく。
箱の意思じゃない。箱を押し動かすものの意思だ。
ぴったり、ぴったり、角を合わせて、きれいに隣り合う箱が美しい。
辺が1ミリでも長いと並んだ箱の間に空白が生まれる。
僕ら箱にとって最も恐ろしいのは空白だ。
だから何層にも重なった少しの隙間もないよくできた箱の中に身を寄せてひしめき合っている。
空気を思いっきり吸い込む隙間もない箱の中に僕らはいる。
夕暮れの教室に、彼女がいた。
窓から少し身を乗り出し、空を見ていた。
僕はそれをじっと見ていた。彼女は青く、空は朱かった。
僕も青かった。
彼女は朱に染まった。
彼女は言った。風になりたいと。
その時から僕らの戦いは始まった。