3.
遠くて近きは課長と董子?の巻
私は豚の生姜焼き定食、課長は鶏の照り焼き定食。付け合せはにんじんのゴマ煮とキャベツの甘酢がけ、味噌汁はナスと油揚げ。
テーブルで向かい合わせになって、黙々と食事をする。松浦さんのお店では饒舌な課長が、ここでは食事に集中している。
私も課長にならって、黙々と食べた。なぜか課長だと沈黙が平気で、むしろこっそり課長を観察できるチャンスだと思えてくるのが不思議。
やっぱり課長の手、好きだなあ・・・前も思ったけど、食器の持ち方も食べ方もきれいだし・・・いくら外見がよくてステイタスがあったとしても、食べ方が汚い人だと分かるとなんか冷めちゃう。その点課長は・・・
「俺の手になにかついてるのか?」
「は?」
「なんか、藤枝が俺の手を見てるようだから」
ひえ~。そんなに私は凝視を?!私のばか!!こっそりならともかく気づかれるまで見るなっつーの!!
「そ、そうでしたか?気のせいですよっ、気のせい」
「そうか。藤枝、味噌汁が冷めるぞ。」
「は、はいいっ」
ふと課長のほうをみると、もうほとんど食べ終わって食後の緑茶があるだけだった。私のほうは、まだ3分の1ほど残ってる。
味噌汁に口をつけたら、思ったより熱くて頑張って飲んだもののちょっとむせる。
「ふ、藤枝・・・冷める前に飲むのはいいけど・・・あわてすぎ・・・」
課長はそんな私の様子をみて、一生懸命笑いをこらえようとしてるみたいに口を手で押さえている。しかし、どう見てもその努力は無駄で「ぶっ・・・」と吹き出したのをきっかけに笑い始めてしまった。
「わ、悪い・・・藤枝は松浦の店でもあわてて食べていたけど、俺が食べるのが早いのは習慣になってるせいだ。自分のペースで食べていいんだよ」
「はあ。気を遣っていただいてすみませんね」
もう、そんなに笑わなくてもいいのにっ。これからは課長の手を見て妄想なんて絶対にしない・・・本人の見てる前では。
割り勘でと言ったのにも関わらず、課長は伝票を持って行ってしまい私の分の会計も済ませてしまった。
「課長、私の分・・・」とお金を出そうとすると、課長は受け取ってくれないまま歩き出してしまう。
私もあわてて横に並んで歩き、会社の前に来ていた。まだ残業している人がいるらしくフロアの窓は明かりがともっているけど、正面玄関はもう閉じられて暗くなっている。
「おとなしくおごられたらいいのに」
「そういうわけにはいきません」
「藤枝は頑固だなあ」
「課長に言われたくありません」
「まあ、そんなところも好きだけど」
「課長?」
今、私の空耳じゃなければ“好き”って聞こえた。思わず課長を見ると、あのオニミヤがしまったという顔をして口を押さえてる。
うわー、もしかしてポロッと言ってしまったことが恥ずかしいのか。
なんか課長かわいいかも・・・・そう思ったら、なぜか口元に笑いがこみあげてきてしまう。
「藤枝、笑うな」
「す、すみません・・・でも普段見られない姿を見ることができて貴重です」
「だから、試してみたらどうだ?」
「そうですね。」
そこで課長がちょっと驚いた顔をしたあとに、なぜかとてもうれしそうに私を見て笑った。
「課長、どうしたんですか?」さっきまで、ちょっと不機嫌だったくせに何でそんなに嬉しそうなんだろう。
「いま、そうですねって言ったよな」
「はい。言いましたけど・・・」
そこで私は会話の流れを頭のなかでリピートする。課長が試してみたらって言ったときに、そうですねって私は答えた。そしたら課長がうれしそう・・・・もしかして私、流れでとんでもないことを言ったのでは?
「か、課長?そうですねって言ったのはですね・・・」
「藤枝は上司の言葉を話半分に聞いていたのか」
「そこで上司風吹かすんですか!」
「まあいい。言質はとったから。」
「課長!!だ、だめですっ。あやふやな気持ちで課長と付き合うなんて出来ません!!」
「大丈夫、藤枝が合意するまで手は出さないように我慢するから」
「は?だから、どうして付き合う方向になってるんですか??」
合意って・・・・・手を出すのは我慢するって・・・・当たり前だし、今言うことかい!!
「藤枝。」
私をなだめすかすような口調になった課長は悪魔の尻尾を隠し持ってるに違いない・・・・。
読了ありがとうございました。
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第2章「藤枝董子は途方にくれる」本編
こんな終わり方でいいんだろうか・・・ま、いいか。
課長の寄りきりということです。
次回は第1章に続き課長視点の「おまけ」です。
次章のネタもですが、課長の名前もそろそろ考えないと。
どうしようかなあ。