2.
後悔先に立たず。の巻
「すみません、藤枝さん」
電話の向こうで高橋くんが謝罪する。
「いいって。訂正内容はメールでもらったとおりでいいのね?」
「はい。お土産、弾みます!!」
「そう?じゃあ楽しみにしてるよ。」
高橋くんは今日、九州支社に出張した。ところが、本人作成の分析資料にミスがあったらしく訂正しようにも、これから打合せで時間がないらしい。
資料を見てミスに気づいた課長が私に訂正を依頼してきた。困ったときはお互い様だから私は快く引き受けた。
それにしても謝罪の電話をしてきた高橋くんの声は普段話すのと違ってビビリ気味だったけど、きっとオニミヤモードで怒られたんだろうなあ・・・想像するとこっちまで背筋が伸びる。
私は高橋くんからのメールを確認すると、訂正を始めた。
訂正と自分の仕事を終えたら、時間は7時近くになっていた。
「藤枝、助かったよ」
休憩室で買ってきたのか、紙コップを課長が机に置く。
「ありがとうございます」
一口飲んで、私がいつも飲んでる「カフェオレ砂糖少なめ」だと気づく。
「藤枝は“カフェオレ砂糖少なめ”が好きなんだよな」
課長は席に戻らずに、高橋くんの椅子に座った。
いま3課にいるのは、私と課長だけだ。今日に限って皆仕事が早く終わったらしい。こうなるのを避けていたのに・・・・高橋くんをちょっと恨む。
「か、課長。ご自分の席で飲まれたら・・・」
「たまには藤枝の隣でもいいかなと思って。」
いいかなと思って、だと?私はよくありません。カフェオレの味が分からなくなってしまう。
これは上司が部下をねぎらってくれてるだけ。他に何の意味もない。だけど、隣でコーヒー飲んでる課長を意識してしまうんだ。
「嫌ではありませんが、あんまりないことなので、びっくりしてます」
「それなら慣れてもらわないと」
「は?どうしてですか?もしかして席替えするんですか」
「席替え?この間したばかりだろう。よほどの事情がない限り、当分ないよ」
課長はコーヒーを飲み終えたのに、まだ高橋くんの席にいる。
私は課長のほうを見ないですむように、飲みかけのカフェオレの入った紙コップに視線を落とした。
2人だけの課内は静かで、PCのモニター音だけが低く流れる。
「もう仕事は終わったのか」
「はい」
「私も今日はこれで終わりだ。一緒に帰らないか。途中でメシでも食おう」
今日は予想外の残業で、家に帰るまえにコンビニで何か買おうと思ってた。この間のことがあるけど、課長と食事をするのは楽しいので断れない。
「そうですね。でも、割り勘にしましょう。」
「・・・・・わかった。じゃ、3課の入り口で待ってるから」
私が割り勘と言ったことが不服なようだったけど、課長はそれを口にせずに席を立った。
「残業帰りにここで、たまに食事をして帰るんだ」
課長が連れてきてくれたのは、会社の裏通りにある定食屋だった。お昼を食べに私も何度か来たことがある小さな店で、いつもサラリーマンで混雑している。
「ここ、昼間なら来たことあります。」
「秋山さんと秘書課の中川さん?」
「はい。ここの豚の生姜焼きが美味しいです」
「ああ。確かにうまいよね」
課長は笑って、格子戸を開けた。
読了ありがとうございました。
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確実に董子との距離を縮めている課長なのでした。
こんなのばっかりですみません。