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天使の前髪  作者: 春隣 豆吉
One year later(番外編)
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番外編:2 高橋くんの同期

 昔から、俺の好みは清楚で守りたくなる女性だ。だから、今まで付き合ってきた女性たちも皆そういうタイプばかりだったのに、なぜか長続きしない。しかも社会人になった俺の周囲には好みのタイプが皆無だ。逆に俺がいろいろ庇われている気がする・・・。

 そんななか、やっと知り合えた好みのタイプが、今日のデート相手だ。合コンで知り合った彼女はお嬢様大学出身だとかで見た目は本当に地味すぎず派手すぎず上品。賑やかに話す女性メンバーのなかで、一人だけ控えめな態度。思わず心の中でガッツポーズをした俺。

 でも俺の好みのタイプを知っている宮本課長は“高橋、少しは学べよ”と呆れた口調で言うし、坂本さんからは“高橋くんは、まだまだ夢見るお年頃なんですね”となんとも黒い笑顔で言われてしまった。

 でも、そんなのいちいち気にしていたらデートはできない。だいたい上司にそんなことを言われる筋合いはない。



 キリのいいところまで仕事をしていたら、待ち合わせ時間に少々遅れてしまった。

「高橋くん、おそい~」

 案の定、彼女はちょっと不機嫌そうに唇をとがらせた。

「ごめん。キリのいいところまで仕事しておきたくて。ここのお茶代は俺がもつからさ。ほんっと、ごめん」

「そう?じゃあしょうがないなあ、許してあげる。ねえ、もうここを出て食事に行きましょうよ。今日はどこに連れて行ってくれるの?」

 え、俺はコーヒーを飲んではいけないんだろうか。確かに遅刻したのは悪かったけど、食事にはまだ余裕があるはず・・・。よっぽどお腹がすいてるのかな。

 ちょっと微妙な感じがするけど、お腹がすいてるならしょうがないか。

「今日は洋食にしようと思ってさ。前に行ったことあるんだけど、とても美味しい店なんだ」

 俺が今日行こうと思って予約したレストランの名前を告げると、まあまあねと言われる。どうやら彼女の機嫌はなおったようで俺は彼女のお茶代を支払って店を出た。


 俺が彼女を連れてきたのは宮本課長の友人、松浦さんが3代目として働いている老舗の洋食屋だ。

 課長夫妻の結婚式で知り合った松浦さんは、課長とは違ったタイプのイケメンで俺みたいな年下にもいばることなく接してくれる。

 テーブルについて食事をはじめると、そこで俺は再び微妙な気持ちになってしまった。

 彼女は食事をするわりには俺のことを見ていない。彼女がちらちらと見ているのは、料理を作ったり接客している松浦さん。

 確かにさ、松浦さんはイケメンだけど。現在きみとデートしているのは俺なんですが。

「高橋くん、あの人と知り合いなの?」

「うん。俺の上司の友人なんだよ」

「そうなの~。料理、美味しいわね」

「・・・うん、そうだね」

 確かに食事は美味しい。でも彼女の言葉はとってつけたような言いっぷり。俺たちは会話が弾むこともなく食事を終えて、俺が会計を終えて外に出ると彼女が忘れ物をしたとかで店に戻ってしまった。

 外見は清楚でも・・・こんなにあからさまな態度はどうかと思う。それでも夜道を一人で歩かせるなんて俺にはできないから彼女が出てくるのを待っていると、店から出てきた彼女はなぜかすごいムッとした顔をしていた。

「どうしたの?」

「別になんでもないわ。高橋くん、今日はここでいいわ。また機会があったらよろしくね?」

「うん、また機会があったらね」

 なんとなく拍子抜けして俺が立ち去る彼女を見ていると、今度は松浦さんが顔をだした。

「お、高橋くんまだいたのか・・・まあ、今回はあれだったが次は頑張れよ。お節介ついでに一つ忠告。外見に惑わされてると痛い目みるよ?」

「はい・・・今日しみじみ感じました」

 俺がため息をつくと松浦さんは店に戻ろうと言い、黙って俺に酒を注いでくれたのだった。


「おつかれさま高橋。今日は仕事終わり?」

 残念すぎるデートから数日後、会社から出ようとしている俺に声をかけてきたのは同期の三島誓子みしま・せいこ

 語学堪能で国際営業部所属でも先輩方に負けない仕事ぶりが評判で、恐らく同期で一番出世すると思う。温和丁寧な性格の彼女は俺にとって気のおけない同期であり友人のひとりだ。

 外見は申し訳ないが同期の女子たちのなかでは一番地味。長めの髪の毛をいつも後ろでぴしっとまとめ、服装はいつも地味な色のパンツスーツに黒のパンプスだ。

「ああ。三島は?」

「私は、これからアメリカよ。帰ってくるのは来週の火曜ね」

 彼女の手には、ボーナスで思い切って買ったと前に言っていた“一生もの” のオレンジ色のトロリーバッグ。

「先週ベトナムって言ってなかったか?相変わらず世界を飛び回ってるなあ。仕事が楽しいかもしれないけど、あんまり無理するなよ」

「ふふ、ありがとう。じゃあまたね、高橋」

 そう言って笑う三島の耳元で小さなピアスが光る。

「お、おう。三島も気をつけてな」

 俺がそういうと、三島はひらひらと手をふってトロリーバッグを転がして背筋を伸ばして出て行った。

 三島と俺って同期で同じ年齢なんだよな・・・でも俺より断然風格を感じる凛々しい後姿に俺はしばらく見とれてしまう。そして心に浮かんだのは松浦さんの忠告だった。

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