1.
試しに白を切ってみる。の巻
課長につきあってほしいと言われてしまった。
「1ヶ月待ってください」って情けない返事をした私に、課長はちょっと驚いたようだけど「わかった」と言ってくれて猶予をくれた。
家に帰ったあと、思わず自分の頬をつねってみる。当たり前だけど、痛い。やっぱり、さっきのは現実だったんだ。
「わたし、30にもなって、なにやってんのよおお~」我にかえって恥ずかしくなった。
あれから10日。私は仕事以外で2人きりにならないように巧妙に課長を避けている。幸いにも忙しい時期が過ぎ、余裕が出てきたので残業時間も長引かない。残業のときは他の社員がいるうちに帰るようにしていた。
避けているくせに、私は課長が気になっている。今まで気にもしなかったのに、最近は仕事の合間にこっそり目で追った結果、課長のクセやしぐさに気づいて余計に恥ずかしくなってしまった。
考え事をしているときは腕を組むとか、無意識に生え際をかいてるときがあるとか、そのうち課長のクセを全部発見しそうな気がする。
それにしても、課長は悔しいくらいにいつものオニミヤだ。なんだか、私一人が動揺してるみたいで悔しい。
1月も下旬が近づくと、デパートのディスプレイやスーパーの売り場にも「バレンタインデー」を意識した商品で彩られる。
ここ数年私が買ったチョコは、響子先輩や真生にあげた“友チョコ”そして自分用に奮発して買った“自分チョコ”のみだ。なんか、チョコ一つに一喜一憂してた学生の頃が懐かしい。
純粋にバレンタインを楽しめるのって、学生までよね・・・と、チョコを真剣に選んでいる学生らしい女の子を見て、しみじみしてしまう。
宮本課長は、バレンタイン前後に他社に行くことがあると確実にいくつかもらってくるし会社内でも昼休みに女性社員が机の上にチョコを置きにきたり、なぜか私に「渡してくれ」と頼んでいく人もいる。
「今年のバレンタインも俺、義理ばっかなんですよ~。藤枝さん」
仕事が一段落したらしい高橋くんが話しかけてきた。
「義理でももらえるんだからいいじゃない。でも、なかには高橋くんのことを好きな子だっていると思うわよ」
「俺なんて100パー義理です。課長のもらうチョコと明らかに見た目が違うんですよ」
部署内で席替えをして、私の隣は高橋くんになった。ちなみに課長の席からもなぜか近い。
「課長と比べたって仕方ないわよ。年季が違うんだから」
「ですよね~。」
するとそこに、「藤枝、高橋。ずいぶん楽しそうな話題だな。高橋、藤枝と話をしているということは分析が終わったんだな。今すぐ見せろ」と課長の冷たい声が割って入ってきた。
「はいっ」
高橋くんがあわてて、USBを課長のところに持っていった。
課長がこっちの進捗状況を聞いてくる前に一息入れてこよう・・・私は席をたった。
休憩室にある自販機でカフェオレ砂糖少なめを購入し、ソファに座ってゆっくり飲む。
「藤枝」
「はい?」声をかけられて視線をあげると、そこには課長が立っていた。
「課長・・・」さっき高橋くんのデータを見てたはずなのに。もしかして、私思ったより長く休憩してた??
「休憩か?」
「あ、私もう行きますから」
ソファから立ち上がった私に課長が声をかけてきた。
「藤枝。ちゃんと考えてるか?」
「な、何をですか」
「忘れたフリをするのか。ま、いいけどね」
そのまま課長も忘れてくれないかな・・・と思って課長の顔を見るけど、そりゃないなと悟っただけだった。
課長は、この間の夜と同じ笑みを浮かべていた。
読了ありがとうございました。
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大変お待たせしました。
第2章です。
今回は短く、おまけ込みで4話の予定です。
たくさんのお気に入り登録ありがとうございます。
なんとか「おまけ」以外の3話が完成しましたので
UPしていきます。