3.
和哉の打ち明け話。の巻
服を着替えて、宿泊する部屋に戻る。
テーブルには披露宴で出された料理と小さ目のシャンパンボトルが準備されていた。
2人ともぐったりとソファに座り込んで思いっきりだらけた姿勢になっている。
「終わったな~」
「うん、終わった」
「皆に喜んでもらえたみたいでよかったな」
「そうだね~」
「・・・・料理、食べようか」
「そうだね。お腹すいた」
食事をしたあとに、和哉さんがシャンパンを注いでくれる。そうだ、今なら教えてくれるかな。
「ねえ、和哉さん。天使の前髪ってどんな意味?」
「え」
和哉さんはぎょっとした様子で私のほうをみた。
「披露宴のときに松浦さんが天使の前髪は俺がつかめばよかったって言ったでしょう。それで思い出したの。課長に休出を頼まれて、松浦さんのお店で食事をしたときにも、同じようなことを言われたなあって。あのとき、和哉さんに意味を聞いたけど教えてくれなかったよね」
「・・・・松浦のやつ・・・・余計なこと言いやがって」
和哉さんはぼそりとつぶやくと、ちょっと顔を赤らめている。うわー・・・・顔を赤らめる和哉さん。なんてレアな。
「天使の前髪ってのは、幸運の天使・・・幸運の女神とも言うけど、この女神には前髪しかないから、目の前に現れたら必ずつかめ・・・要は、目の前にきたチャンスを逃すなってことだよ」
「へー、なんのチャンス?」
すると、私の発言を聞いた和哉さんがなぜか頭を抱えている。
「・・・・・・・まあ、そうだよな・・・俺、下の名前覚えられてなかったしな」
「それはごめんなさい。当時興味がなかったもので」
すると和哉さんがやれやれと言った感じで肩をすくめて首を振った。その欧米なしぐさにツッコミをいれていいだろうか。
「あのな、董子。一度しか言わないから」
「はい?」
「最初は仕事ができるから引き抜いただけだった・・・でも俺はね、そのうち董子の全部が知りたくなった。個人の思惑で残業をさせるなんてとんでもないし、食事に誘おうにも、きみはいつも仕事を終えたらさっさと帰ってしまうし・・・」
そこまで言うと、和哉さんは何かを思い出したのかため息をついた。
「早くから俺の気持ちに気づいてた坂本からは“宮本さん仕事以外ではヘタレですね”とか言われるし。そうじゃなくても山崎みたいなのもいるし。だけど、そこにあの日の休出が舞い込んだわけ。
俺はね、これを活かさなきゃ次はないって内心相当焦ってたんだ。だけど、うまく前髪をつかんだおかげで、俺の隣に董子がいる・・・・」
さっきまで正面にいたはずなのに、なぜ今は真横にいるのでしょうか。しかも顔が近いんですけど、和哉さん?
ソファにゆとりがあってよかった・・・じゃないっ。
和哉さんがにじりよってきて、私はクッションにもたれる恰好になっている。
「え、えっと、和哉さん。まだシャンペンのみたい・・・」
「だめ。飲みすぎはよくないよ?」
「あああの、ソファ・・・なの?」
「んー、狭いのは嫌だよね?じゃあ移動しようか。董子に選ばせてあげるよ。お風呂とベッドどっちがいい?どっちも俺と一緒なのは当たり前だけどね」
「なにその二択!!1人でお風呂・・・きゃっ・・・」
ふいに和哉さんから首筋にキスをされた。
「それは認められないな。さあ、どっちにする?俺はここでもいいけどね」
和哉さんから耳元にささやかれる。この人、絶対自分の声が私にとっていい声だって分かってるよ!!
「・・・明日から旅行だよ?」
「まだ17時だから余裕だよ。どうやら答えがないようだから、俺の一存で決めようかな。ベッドから風呂のコースで決まりね」
和哉さんに抱きしめられて、力が抜けていく・・・なんだかんだで私、和哉さんには逆らえないんだ・・・・
次の日、身体につけられた跡の数にぎょっとしたのは言うまでもない。
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朝、起きるのに時間がかかった董子でもありました。




