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宮本和哉と藤枝家の人々(前編) 課長視点です
俺の部屋で夕食後にお茶を飲んでいるときに、董子が口を開いた。部屋に来たときから、何か言いたげな様子だったけど、まさか反対でもされたのだろうか。
「あの、和哉さん。来月の頭に私の実家に行くときに弟たちが和哉さんに会いたいと言い出して、実家に来ることになってしまいました」
すまなそうにうなだれる董子。確か、董子は3人兄弟の一番上で長女。4歳下の弟さんたちは双子で現在公務員だと聞いている。
「よかった・・・てっきり反対されたのかと」
「いいえ!そんなこと絶対にありませんっ。うちの両親は和哉さんに会うのをすごく楽しみにしているんです。
母なんて、宮本さんは何が好きなのかしらってこの間私に聞いてきました。だから大丈夫です。私がついてます・・・頼りないかもしれないけど」
そんな彼女が可愛くて思わず抱きしめると、あわあわしながらも俺の背中に手をまわしてくれた。
董子の実家は、一人暮らしの彼女の部屋から電車を乗り換えて1時間ほどのベッドタウンといわれる場所だった。
「駅から歩いて15分くらいなので、タクシーで行きましょうか・・・・えっ!!なんで!!」
彼女がぎょっとした感じでロータリー方向をみている。その視線の先には彼女に向かって手をあげてる若い男。
ブルーのシャツにブラックのカーディガン、ベージュのチノパンを着た背が高く黒縁メガネをかけた男は、困惑してる董子を見て面白そうににやりとしたあとに近づいてきた。
「姉さん、久しぶり」
「理斗、なんでここにいるのよ」
「母さんから姉さんたちが来る時間を聞いたから、姉さんたちが到着する時間を調べて文斗と迎えに来たんだよ。
文斗は車で待ってるよ。ところで姉さん、紹介してよ」
「そ、そうね。和哉さん、私の双子の弟の1人で理斗です」
「初めまして。藤枝理斗です。姉がいつもお世話になっております」
「こちらこそよろしく。宮本和哉です。董子さんにはお世話になっています」
「ふーん・・・」
それだけいうと、理斗君は俺をじろっと見た。
「ちょっと、理斗!失礼でしょう!!文斗が待ってるのなら早く行くわよ」
董子が軽く叱ると、理斗君は「はいはい。姉さんは気が短いんだから。こっちだよ」と歩き出した。
到着したところには濃紺のハイブリット車が停まっている。運転席には理斗君と顔はよく似ているが、がっちりした体格の男性だった。どうやら彼が双子の片割れ、文斗君らしい。
グレーのカットソーと紺色のデニムを着て、こちらはメガネをかけていないし髪の毛も理斗君より短めだ。
「おかえり、姉さん・・・こんにちは・・・おせーよ、理斗」
乗り込んだ人間への反応が分かりやすすぎる・・・董子には満面の笑み、俺にはなんとも複雑な顔。理斗君には遠慮がない。
「ちょっと文斗、ちゃんと挨拶しなさいよ。ごめんなさい和哉さん。この愛想がないのが双子のもう1人、文斗です」
「・・・初めまして。藤枝文斗です」
「宮本和哉です。よろしく」
「・・・・よろしく」
そう言うと、文斗君はゆるやかに車を発進させた。
「おかえりなさい。まあ、いらっしゃいませ。・・・・あら、どうしてあなたたちが一緒にいるの?」
董子の母親と思しき女性が、双子たちを軽くにらんだ。
「我が家を訪問する時間が分かってるのに、タクシーなんて使わせたら悪いでしょ?運転できる人間が4人もいるのにさ。でも、母さんは忙しいし、父さんはそれどころじゃないし。俺らしかいないじゃん」
理斗君がしれっとした表情で言う。
「久しぶりに陸上に戻ったから、車の運転がしたかった」
文斗君は公務員って言ってたけど、どこで働いているんだろうか。そういえば、理斗君も公務員だっけ・・・・それにしても、弁が立ちそうな理斗君と寡黙な文斗君か。対照的だな。
「まったく、あなたたちは・・・・ごめんなさいね、宮本さん。驚いたでしょう」
「いいえ。大丈夫です」
「それならいいんだけど。さあ宮本さん上がってくださいな」
董子の母親は、そういうと俺たちを居間に通した。
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董子の家族構成は
両親と双子の弟です。




