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動き出すもの-4
ファイルを抱えた私と課長は、何となく気まずい感じのまま3課へ戻るため廊下を歩いている。
課長が話しかけてこないのをいいことに、私はさっきの出来事を頭の中で考えていた。
山崎くんの気持ち、全然気づかなかった。私って最低・・・。
はあ~とため息をつくと、並んでいる課長から声をかけられた。
「董子、ため息をつくな。」
「え」
いくら誰もいないとはいえ、昼間から社内で私のことを「董子」と呼ぶなんて。
「確かに董子は鈍いけど、山崎に罪悪感を感じるなよ」
「はあ」
最初の部分にはひっかかるものがあるけど、課長は慰めてくれてるらしい。
「今日は定時に上がれそう?」
「そうですね。特に急ぎの仕事は抱えていませんから」
「じゃあ、松浦の店で食事でもしないか?」
「はい。」
3課のフロアが近づき、課長に続いて入ってきた私に一時皆の視線が集まったけど、誰も何も言わなかった。
「いらっしゃい、宮本くん。息子が休みの日に来るなんて珍しいね」
「ええ。邪魔されると困るので」
松浦さんの店で、私たちを出迎えてくれたのは松浦さんに良く似た穏やかな風貌の人だった。
会話の流れから、松浦さんのお父さんで「2代目」だということがわかった。
課長から私を紹介されると「宮本くんにも可愛い彼女がいるというのに、うちの息子は情けないよなあ」と笑っていた。
注文した食事が届いて、お父さんが「ごゆっくり」と席を離れる。
「あの、和哉さん」
「ん?」
「私って鈍いのかな」
「んー、まあ・・・・そうだな」
そんなことないよと言われないことに少しがっかりするけど、山崎くんのこともあるし私はちょっと人の機微というものに敏感になったほうがいいかもしれない。
「だけど、董子は董子のままでいいとおもう。俺は、そんな董子と結婚したい」
「ありがとうございます・・・・・ん?結婚?」
「そのまま聞き流してくれていいのに。董子は変なところ鋭いんだよな」
いやいやいや。そこは聞き流しちゃだめだろう。何故なし崩しで承諾させようとしてるんだ、この人は!!
「和哉さん・・・」
「俺なりにタイミングを計っていたのに・・・山崎が“別れたら連絡しろ”なんて言うから」
しかも山崎くんのせいにしてるし。
「和哉さん、人のせいにしちゃだめだって」
私がそういうと、課長もなんだかバツが悪そうだ。だけど、気を取り直したのか真面目な顔をして私を見つめてきた。
自然と私も背筋を伸ばして、課長を見つめる。
「藤枝董子さん」
「はい」
「俺と結婚してくれませんか?」
「はい・・・こちらこそ、よろしくお願いします」
私と和哉さんの関係が、また一つ変わっていく。
読了ありがとうございました。
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ようやくここまで進展しました。
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なるべく早めに更新できるように頑張ります。




