2.
動き出すもの-2
「藤枝、資料室から持ってきてほしいものがあるんだ」
次の日の午後、課長から呼ばれ紙を渡される。
「わかりました。」
資料室の鍵は総務で管理しているため、私は響子先輩のところに立ち寄った。
「資料室行くのなら台車持ってく?」
「ファイル1冊だけなので大丈夫です。」
そう言って、鍵だけ借りて資料室に向かう。
資料室はひんやりとしていて静かだ。だいたい部署ごとに棚が分かれているため、ぶらぶらと棚を見ていく。
「営業企画部・・・お、あったあった」
紙に書いてある資料が入っている箱はあっさりと見つかったものの、上に積んである箱をどかさないといけない。
腕まくりをして一番上の箱に手をかけたとき、誰かがドアを開ける音がした。足音はこっちに向かっている感じ・・・・資料室の怪談話なんて聞いたことないし、誰かこっそり待ち合わせでもしてるのか?いやいや、普段は施錠されてて総務から鍵借りないといけないし・・・・
若干びびりながらも、箱を下ろしていると「藤枝」と声をかけられた。
聞き覚えのある声に、思わず胸をなでおろす。
「山崎くん、どうしたの?」
「宮本課長から、藤枝が資料室にいるから手伝えって頼まれたんだ。それ、降ろせばいいの?」
「これくらいなら大丈夫。山崎くんは戻っていいよ?」
だけど、山崎くんは私の言葉を聞かずに箱を下ろしてしまう。
「資料が入ってるのは、一番下の箱?」
「そう。ありがとう、山崎くん」
私が一番下の箱を持とうとすると、「俺が持つから」と山崎くんが持ち上げてしまう。
「この机の上でいいのかな」
「ありがとう。」
資料室には書類を広げるための机が置いてあって、ちょっとした調べものならここで済ませることができるようになっているのだ。
それにしても、ファイル1冊だけを探すのに課長がわざわざ援軍を頼むかなあ。だけど、山崎くんが私にウソをつく必要はないし・・・。
「・・・山崎くん。必要なのはファイル1冊だけだから、もう3課に戻っていいよ?片付けなら私一人で出来るから」
「なあ、藤枝」
山崎くんは机によりかかって戻る気配がない。それがなんだか恥ずかしくて、私は「ん~?」と下を向いたまま返事をした。
お目当てのファイルを見つけて、私は箱の中身をもとに戻し始めた。箱が置いてある順番は決まっているわけじゃなさそうだから、この箱を一番上にしておくことにする。
「宮本課長とつきあってるんだって?」
思わぬ質問に顔を上げると、山崎くんが真剣な顔をして私を見ていた。
「えっ、なんで、それ・・・」
「否定しないのか・・・」
山崎くんは、まいったなあとぼやいたあと、頭をかいた。
「や、山崎くん。誰に聞いたの」
「昨日1課に行ってすぐ。取引先の男性社員の目の前で、宮本課長がみんなの目の前で藤枝をさらっていったんだろ?」
いったい、どんな広まり方をしてるんだ・・・おいっ!!
「さらったって・・・大げさな。」
「でも、付き合ってるのは事実だろ?」
「それは、そうだけど」
「あのさ、俺は同期だからって誰にでもお土産買ってくる性格じゃないよ」
「え。そうなの?」
私がびっくりして聞き返すと、山崎くんはちょっとため息をついて私をかわいそうな人を見るような目で見た。
「藤枝が、あのモナカが好きだっていうから買ってきてたんだよ。試しに中川とか同期のやつらに聞いてみろよ。俺が土産を買ってくるのは藤枝だけ・・・どういうことか分かる?」
そういうと、山崎くんは私の腕をつかんだ。
読了ありがとうございました。
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オフィスものといえば、資料室(笑)。
まあ、私の作品なので刺激的な感じは一切ありませんが・・・




