後編
課長視点です。
花火よりも浴衣の彼女。の巻
董子からの待ち合わせ場所を秋山夫妻の家に変更したいと言われたとき、ちょっと疑問に思ったものの、秋山さんとの用事があるならしょうがないかと思い、俺は夫妻の家の最寄り駅に降りた。
董子から教えられた改札を通り抜けると、そこには秋山が立っていた。
「宮本。さすが時間通りだね」
「秋山、悪いな。暑いなか迎えに来てもらって」
「んー、まあ僕がいても邪魔だからね」
そう言うと、秋山は「うちはここから歩いて5分くらいだからさ」とにっこり笑った。
それにしても・・・影の総務課長といわれる秋山さんと、いつも穏やかで典型的な理系人間の秋山が、いったいどんな馴れ初めで結婚したのか謎だ。
「と、董子?それ・・・」
「は、はい。実家から持ってきて、響子先輩に着付けてもらったんです」
秋山の家に到着すると、董子が浴衣を着てソファに座っていた。紺色の浴衣は董子にすごく似合っていて、思わず絶句してしまう。
「藤枝、かわいーでしょう。ちょっと宮本くん、なにぼーっとしてるのよ。」
秋山さんのドヤ顔が目に入って、あわてて口を開く。
「え・・・あ、そのびっくりした。すごく似合ってる」
うん、このまま俺の部屋に連れて行きたいくらい。花火大会で知らない男に見られたくないくらい。
「ありがとうございます。課長」
いつもなら和哉さんなのに、いちおうよその家だから気をつけているらしい。
お互いになんだか黙ってしまうと、割って入るように「とーこちゃん、もういっちゃうの?」と幼い声がした。
よく見ると、董子の隣には秋山そっくりの男の子がくっつくように座っている。なんて分かりやすい遺伝子の神秘。
「賢、パパの友達の宮本さんだよ。あいさつは?」
秋山に言われて、こっちを見た賢くんは何が気に入らないのかちょっとふてくされた様子で「あきやまさとし。5さいだよ。」と指を5本だした。
「俺は宮本。こんばんは」
俺が笑うと、なぜか顔をそらされてしまう。5歳ってことは信史と同じ歳か。
「そういえば宮本くんたちは何時ごろ出る予定?」
「会場に行く前に、軽く夕食食べようと思ってるから、そろそろかな」
「ぼくもとーこちゃんといっしょにはなび、いきたい!!」
「だめよ。賢にはまだあの混雑は早いわ。迷子になったらどうするの」
「そうだよ。疲れても誰も抱っこしてくれないぞ。」
どうやら、賢くんは董子が好きらしい・・・なるほど俺はライバル認定されたか。
両親になだめられたらしく賢くんは渋々ながらもあきらめた。でも俺たちが家を出る前に「とーこちゃん、こんどは、そのおじちゃんじゃなくてぼくとはなびだからね!!」と言うのを忘れなかった。
手をつないで打ちあがる花火を見上げる。
「きれいですね」
「うん。」
「和哉さんも花火が好きなんだ。よかった」
「いや、俺が“うん”と言ったのは董子がきれいだってことだから」
すると、董子は下を向いてしまう。そして小声で「どーしてこの人はもう・・・」とぶつぶつ言っている。
「こんなこと言うのは、董子にだけだよ」
いたずら心がわいて彼女の耳元に口をよせてみる。
「・・・・!!」
目を見開いて俺を見る彼女は、暗くてわからないけどきっと真っ赤になっているに違いない。
そのとき目玉と思われる巨大な打ち上げ花火が大きな音をたてて花を開いた。
周囲は「わあ・・・」と声をあげて花火を見上げる。
「董子」
「はい?」
振り向いた彼女にキスをしてしまったのは花火で照らされた顔にそそられてしまったせい。
「な、なにすんですか」
「大丈夫、みんな花火しか見てないから。」
「そ、そんなことっ」
ついでに彼女を混雑にまぎれて抱き寄せてみる。
「もうメインの花火が終わったみたいだね。最後まで見てく?」
「え、えっと・・・」
周囲は帰り始める人もちらほら。たぶん、はきなれてない下駄で足が疲れているはず。
「足、疲れてない?俺には正直に言ってくれよ」
「・・・・ちょっと疲れてる。」
「じゃあ帰ろうか」
「うん。」
改めて手をつないで駅に向かって歩いていく。
「俺の部屋に帰ったら、浴衣姿じっくり見せてね」
「さっき、響子先輩の家で見たじゃない」
「俺としては、2人きりで見たいんだけど」
「・・・和哉さんって浴衣が好きなの?」
脱がせるのも好きだよと耳元で言うと、「だ、だから!!なんでここで言うの?」と怒られてしまった。
読了ありがとうございました。
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まず謝ります。
ごめんなさい、もし課長の声をきめられるとしたら
絶対この人!!って声優さんがいるのですが、
そのかたがCVを務めているキャラが重なってしまい
最近、董子と会話する課長がちょっと・・・(以下自主規制)。




