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天使の前髪  作者: 春隣 豆吉
藤枝董子の厄日もしくは・・・
5/73

4.

壁に耳あり障子に目あり。の巻

「いらっしゃいませ、董子ちゃん」

「こんばんは、松浦さん」

「松浦。人の部下を気安く呼ぶんじゃない」


 課長の友人で、この老舗洋食屋の3代目である松浦さんは、クールな感じのイケメンである課長に対し奥二重のつぶらな瞳と端正な顔立ちの、いつもにこやかなイケメンである。女性客のファンが多いんだろうなあ。

「董子ちゃん。名前で呼んじゃダメだったかな」

「別にかまいませんよ。」初対面じゃないし、イケメンに名前で呼ばれるとなんかときめくし。

「董子ちゃんがいいっていうんだ。悔しかったらお前も呼んでみれば?」

 課長が私を名前呼び・・・・想像がつかない。“プライベートでは溺愛系かもよ?”という真生の言葉が頭に浮かび、なぜか顔が赤くなってくる。

 私は二人に気づかれないように、あわててメニューに顔を向けた。

 課長を黙らせた松浦さんが、メニューをじっと見ている私に「豚肉のポトフがおすすめだよ。野菜をたっぷり食べられるし、温まる」と声をかけてくれた。

「美味しそうですね。じゃあポトフお願いします」

「俺もポトフ」課長もメニューを閉じた。

「かしこまりました・・・・おい、ミヤ。料理は少し遅いほうがいいか?」

「腹減ってんだ。さっさと持って来い、3代目」

「承知しました。董子ちゃん、ちょっと待っててね」

 そう言ってメニューを引き取った松浦さんが立ち去る。


 しばらくして松浦さんが持ってきてくれたポトフは、野菜がたっぷり入っていて豚肉も柔らかく、スープはあっさりだけどうまみがある。

「・・・おいしい。」

「うん、やっぱりうまいな」

「課長は何度も食べてるんですか」

「まあね。この店の冬の限定メニューだから。肉がウインナーや厚切りベーコン、骨付き鳥肉のときもあるから、飽きないんだよ」

「へえ・・・」

 美味しいものの前では、人は無口だ。私と課長は目の前で美味しそうな匂いを漂わせるポトフを食べることに集中していた。

 ポトフに添えてあるパンは、かりかりに焼いたバケットで、それをちぎってる課長の手は平たくて骨っぽさがあって長い指・・・もちろん爪は短く整ってて・・・・・・課長に恋愛感情はないけど、手は好きかも。私って手フェチだったのか。この人、どういう感じで恋人に触れるのかなあ・・・・

「藤枝、どうした?」

 課長に言われて、私は現実に戻った。

「何でもありませんっ!課長、ポトフも美味しいですが、パンも美味しいですねえ!!」

 私はあわてて、ちぎったパンを口に含んだ。課長の手に見とれていましたなんて、絶対に言えないっ。

 課長はそんな私を見て「そんなにあわてて食べなくても、まだ店は閉店しないから大丈夫だよ」と的外れな心配をしていた。



「また、ご馳走になってしまって申しわけありません・・・」

「俺の夕飯につきあわせたんだから、気にすることじゃない」

 週末よりは人通りのない繁華街を、課長と私は連れ立って駅までの道を歩く。そして、やっぱり休出の課長は幻じゃなかったんだと再認識する。

 仕事が絡まない課長は松浦さんの言動に表情豊かに反応するし、面白い話には笑う人なんだ。

「そうだ、藤枝」

「はい」

「“なんでよりによって課長”だっけ」

「へっ・・・」

 思わず足を止めて課長を見ると、すごく楽しそうな笑みを浮かべていた。その笑みが獲物を見つけたように見えるのは、私の気のせいよね??

「俺と藤枝が噂になっているようだね。」

「そ、そうなんですよっ。もー、だれなんでしょうね。困っちゃいますよね~~~はははっ。大丈夫ですよ、そのうち消えますから」

 壁に耳あり障子に目あり!今私はピーンチ!!焦る私を見た課長は、なぜか私の手をにぎって「藤枝、手が冷たいな」と笑う。

「か、課長。手、離してくださいっ」だけど、課長は手を握ったままだ。

「藤枝。俺が“溺愛系”かどうか試してみたらどうだ?」

「は、はい?」

「藤枝は、つきあってる相手はいるのか?」

「い、いませんけど、それがなにか」ここで正直に白状するな、私!!

「俺もつきあってる相手はいない。じゃあ、問題はないな」

「は?」

「俺とつきあわないか?藤枝。」

「へっ・・・む、無理です。」

「どうして」

「か、課長には、もっとお似合いの人が現れますから、私なんかとつきあわなくてもっ」

「俺と藤枝が無理な理由にはならないな。俺が藤枝を気に入ってるんだから、それでいい」

「え、えっと、しゃ、社内恋愛は、いかがなものかと・・・」

「会社は社内恋愛を禁止していない。秋山さんを見ろ。」

 なんか、どんな反論をしても課長に言い負かされてしまう・・・・悪魔がどこかで「ここでうなずいておいたほうがいいんじゃないか」って私にささやいた。


読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!



これを書いててポトフ食べたい・・・と思った私です。

圧力鍋で作れるそうなので、一度チャレンジしてみようかな。

「藤枝董子の厄日」本編はこれで完結ですが

”おまけ”を追加します。

課長サイドのちょっとした裏話になるかと思います。


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