4.
食事中はお静かに。の巻
「いらっしゃい董子ちゃん・・・なんだミヤもいたのか」
「当たり前だ。」
「董子ちゃん、今度は友達と店においでよ。ちなみに女性限定でね」
「董子の友達がお前の毒牙にかかったら顔向けできない。」
課長と松浦さんは、相変わらず仲がいい。
「はいお待たせ。トマトとバジルのサラダ、にんじんと白身魚のハーブ煮、鶏肉のマスタードグリル。」
松浦さんが料理を次々と持ってきてくれ、私たちのテーブルの上には美味しそうな料理が並ぶ。
「まずは、食べようか」
「そうだね」
にんじんも魚も柔らかく、スープはハーブがいい匂い。チキンも皮はぱりぱり中はしっとりだ。サラダにはたまねぎのみじん切りが入ったドレッシングがかかっていた。
「美味しい~。やっぱり松浦さんの料理、美味しい。」
「そう?董子ちゃんにそう言ってもらえると、俺うれしいよ」
「だから、なんで注文した料理が全部来た後もここにいる」
「俺は水のお代わりいかがですかって聞きに来たんだよ。董子ちゃん、ミヤって心狭いよね」
「は、はははは・・・」
「さっさと厨房に戻れよ、3代目。」
「今度はもっとすいてる日に来いよ。なんだって金曜日に来るかね~」
松浦さんは笑って、厨房に戻っていった。
「まったく、松浦は」
課長は半ば呆れ顔でチキングリルを食べだした。
「きっと松浦さん、和哉さんと話がしたくてたまらないのよ。仲良しだね」
「・・・仲良し・・・・まあ、学生の頃からの付き合いだからなあ・・・・。でも、董子との時間を邪魔されたくない。」
「私は、2人の会話を聞いてるのが楽しいんだけどな。」
「それを松浦の前で言うのはやめてくれよ。アイツはすぐ図に乗る」
課長があまりに真面目な顔をして言うので、私が思わず吹き出してしまった。
「そういえば、和哉さん。今日のケータイのメールだけど、あれはなに?“寄り道しないで、なるべく早く帰ってくるように”って。私は小学生?」
食後のお茶を飲んでいるときに、私が聞くと課長はちょっとうろたえた様子をみせた。
「あれはその・・・野村くんと董子が会うのが・・・・ちょっと面白くなかったんだ。ごめん」
課長・・・松浦さんに心狭いって言われてもしょうがないかも。
「届けた後に、コーヒーおごってもらってちょっと話をしたけど、和哉さんと付き合ってるのかって聞かれて“うん”って答えたら“そっか”だって。まあ金曜日の目撃者だもんね。」
「董子。坂本や高橋から、いろいろ言われてるって聞いたんだけど・・・やっぱり、あそこでばらしたのはまずかったのかな」
「え?うーん・・・まあ、確かにいろんな人からじろじろ見られたり“課長といつからつきあってるのか”って言われたりしてるけど。」
「それ、誰に言われたか分かる?」
和哉さんの後ろに黒いものが見えるのは気のせい・・・であってほしい。ここで私が名前を言おうものなら、その相手に災いが降りかかるかも。それはちょっとかわいそうだ。
彼女たちは、好きな男性に彼女が出来たことが気に入らないだけなんだから。
「さ、さあ??でも、私と和哉さんのことは別に厳重に隠しているものでもないから、いずればれただろうし。だから、時期が早まっただけだと考えを切り替えたの。大丈夫よ。噂はされてても、嫌がらせはされてない。人の噂も七十五日って言うじゃない」
言葉にすると、私のなかに力がわいてくるような気がした。びくびくしてないで、堂々としよう。逆に何人に同じ質問をされるのか楽しみにしてやる。だけど、そのたびに答えるのも面倒だなあ・・・。
私がぼんやりそんなことを考えていると、課長がなぜかニヤリとした。
「和哉さん?」
「董子、届け物をしたら“寄り道しないで、なるべく早く帰ってくるように”って言われたのに、野村くんとコーヒー飲んだよね」
「へ?」
「恋人との約束を破るってのはどうかと思わない?」
「はあああ??」
「帰ったらお仕置きね」
「お仕置き?何よそれっ!」
「うん、楽しみだなあ」
課長は私の手を握って楽しそうに笑った。
私の頭のなかに“危険信号”が点滅し始めた。
読了ありがとうございました。
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課長みたいのを揚げ足取りと言う・・・
「お仕置き」の内容は皆様の妄想におまかせします。




