3.
お届け物は慎重に。の巻
野村の会社は、松浦さんの店に行くときと同じ駅が最寄り駅だ。坂本さんが書いてくれた地図を見てオフィス街を歩く。
「ここね。」
今まで電話やメールで何度か担当の人とやりとりをしたことはあるけど、会社に実際に来たのは初めてだ。
受付の人に社名と来意を告げると、「そちらのテーブルでお待ちください」と告げられる。
示された場所で待っていると、野村がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
「悪いな、骨董。」
「はい、これ」
「ありがとう」
私が封筒をわたすと、野村はその場で確認し満足したようで、「ちょっと待ってて」と言い坂本さんに電話をかけた。
お礼の電話をしたらしく「はい。わかりました」と電話を切っていた。
「野村。私もう戻るわね」
「え?もう?」
「私は届け物をしに来ただけから」
「俺、これから休憩しようと思ってたんだ。付き合ってよ、骨董」
野村はにかっと笑った。まあ10分くらいならいっか・・・。
連れて行かれたのは、野村の会社ビルに入ってる全国チェーンのコーヒーショップだった。
「ほら。アイスカフェモカ」
「ありがと」
あらためて、2人だけでお茶を飲んでると何か変な感じ・・・・
「俺、この間再会するまで骨董って高校生のままで覚えてたんだよ。だからいきなり大人になった骨董が現れてびっくりした」
「まったく、そのあだ名は止めてって言ったのに」
「悪い。でも、どうも“骨董”じゃないとしっくり来ないんだよな」
「あっそ・・・」
こういう会話をしてると、高校生の頃に戻ったみたいだ。もっとも、私は地味グループで野村が目立ちグループだったから両手で数えられるくらいしか会話したことないけど。
「あのさ骨董。本当に宮本課長とつきあってるのか?」
「・・・野村、あんたまで?」
「は?」
「似たような質問は、あんたで9人目。そんなに人の異性関係に興味あるわけ?」
「わ、悪い。俺の目の前で起こったことだから気になっちゃって」
ちょっと焦っている野村を見て、反省する。私の状況を知らない野村に八つ当たりしてもしょうがないのに。
「こっちこそ、言葉を荒げてごめん。うん、宮本課長とつきあってる」
「・・・そっか。それにしても俺で9人目って。骨董も大変だな」
「そうそう大変よ。ずっと地味に過ごしてきたのに変なスポットライトが当たっちゃって」
「変なスポットライトってなんだよ。ま、軽口叩けるなら大丈夫だな」
どうやら野村なりに、私のことを心配していたらしい。だからどうってわけじゃないけど、何か嬉しかった。
会社に戻ると、3課にいたのは課長だけだった。
「ただいま戻りました」
「ご苦労さん。会社の場所はすぐにわかった?」
「はい。坂本さんの地図は分かりやすいですから。あの皆さん、外出ですか」
「そう。」
課長はそれだけいうと、パソコンに視線を戻した。
私も席について、仕事を始める・・・と、ここで携帯にメールがきてる。送信者は課長・・・思わず、課長のほうをみると、素知らぬ顔をして仕事をしている。
『おかえり。今日の帰り、松浦の店で夕食を食べないか?』
『はい』と返信すると、携帯を見ている課長の顔がちょっとほころぶのが見えた。
なぜか急に恥ずかしくなってしまい、あわててPCに視線をうつした。
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野村くん再登場です。




