1.
通勤列車をご一緒に。の巻
今日ほど月曜が来てほしくないと思ったのは、社会人になってはじめてかもしれない。
金曜の夜、営業企画部主催の飲み会が終わった後に皆の見ている前で課長は私の手をひいて帰った。
日曜日、家に帰ると言った私に課長は「じゃあ、俺もそっちに行く」と言い出し速やかに実行に移した。まさかの私の部屋に初のご招待になってしまった。
この間掃除しておいてよかったよ。私はそれなりに片付いた状態にある部屋をみてほっとしていた。
「董子の部屋、壁薄い?」
「いちおう、防音設備はあるけど・・・和哉さんの部屋みたいではないよ。だから、今日は・・・その」
「じゃあ、声には気をつけないと」
「いや、それもそうですけど。ベッド狭いですし。」
「俺、寝相悪いかな」
「ううん」
「董子も寝相悪くないよ。大丈夫」
なにが大丈夫なの・・・・と言おうとする私の唇を課長はキスでふさいでしまった。
「同じ沿線なんだから一緒に出勤してもいいじゃないか。そういえば、なんで今まで出勤時間がかぶらなかったんだろう」
「さあ。なんででしょうね。それよりも手、離してください」
「会社に到着したら離してやる」
「いやいや。駅に到着したら離しましょうよ」
電車がちょっと揺れて、課長にもたれかかる形になった。あわてて離れようとするけどなぜか課長が私を離さない。
「和哉さん?」
「今度からはたまに一緒に出勤な」
「いやそれはちょっと」
「却下」
却下ってなに。それにしても見上げると課長の顔が近い。見慣れてはきてるんだけど、やっぱりこの人“イケメン”と呼ばれる顔立ちしてるよなあ・・・・。
「俺の顔になんかついてる?」
「いえ。」
しばらくして電車は最寄り駅に到着し、私はあわてて離れた。和哉さんも私のあとから降りてくる。
そして手もつなごうとしない。私の言い分を聞き入れてくれたようでほっとした。出勤はともかく会社まで手つなぎなんて、どんな羞恥プレイだ。これからも絶対ごめんだ。
2人で並んで歩いていると「おはよー」と後ろから声がかかった。
振り返ると、響子先輩がにやにやしながら立っている。
「おはよう、秋山さん。あれ秋山は?」
「今日はダンナが息子を保育園に送る日なの。それにしても一緒に出勤?でも同じ沿線だもんね。偶然か」
「そうなんで・・・」と私が言いかけたら、課長が「いや。一緒に出勤してきた」と響子先輩に言ってしまう。
「は?なに朝からその大胆発言」
「俺、董子とつきあってることを内緒にするの止めたんだよ。どうせ営業企画部には知られてるし。」
課長はそう言うと、金曜日の話を響子先輩に話した。響子先輩は気の毒そうな視線を私に向けた後「藤枝。更衣室まで一緒に行こう」と私の肩をたたいた。
その後、「なんで秋山さんも一緒なんだ」という課長のぼやきを無視して、響子先輩もまじえた3人で会社まで行ったのは言うまでもない。
読了ありがとうございました。
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前回UPから1ヶ月もかかるとは・・・・大変お待たせして申しわけありません。
おまけも含めて全5話を楽しんでいただけると嬉しいです。




