6.
いつもより苦いコーヒー。の巻
課長視点です。
その日、松浦の店は定休日だったのだが、俺が事情を話すと「だったら俺の店にしろよ。料理は無理だけど飲み物なら出せる」と言い、場所を提供してくれたのだった。
川辺の電話番号は、なぜか松浦が知っていた。俺より先に川辺に再会していたらしく電話番号を交換していたらしい。
話があると言ったら嬉しそうな声で承諾されてしまい、気が重くなってしまった。
カランとドアが開く音がして、川辺が入ってきた。
「松浦くん、久しぶりだね。宮本くん、待たせちゃったかな」
「俺もさっき来たばかりだから大丈夫だ」
「川辺、今日うち定休日で飲みもんくらいしかないんだ。わりいな」
「ううん、いいわよ。久しぶりに3人で食事に行きましょうよ」
今日の川辺は髪の毛をおろしていた。大きめのウェーブがかかった肩甲骨まで伸びた髪、きれいにネイルの施された長い爪。でも俺は董子の短い髪のほうが好きだし、短い爪のほうが手をつなぎやすくていい。
だけど今までの彼女は、まさに今の川辺みたいなタイプばっかりだったんだよな。
「その前に、川辺に聞きたいことがあるんだ」
「なに?」
「董子と会ったのか?」
するとそれまでにこやかだった川辺の顔が強張った。
「・・・・彼女に聞いたわけ?」
「董子に何を話したか教えてくれないか。罪な男だの鈍い男だのいわれて訳がわからん。理由を聞いたら川辺に聞けの一点張り。」
すると、川辺がぷっと吹き出した。
「そこ笑うところか」
「ごめんごめん。じゃあ教えてあげる。大学生の頃、一人の男の子と知り合ったの。向こうは私のことを友達だって思ってたみたいだけど、私は違ったのよね。
近づきたい一心で、その人の真似してブラックコーヒーを飲んだりとかしたものよ。だけど“彼氏ができたら教えろよ。人となりを見てやる”なんて言われて、告白できなくなってしまったわ。」
俺を見る川辺の顔は、今にも泣きそうだった。こんな顔、はじめて見た。
「社会人になって結婚したけど、その理由は元夫が大学時代に好きだった男の子にちょっと似てたから。そんな結婚、うまくいくわけないよね。
離婚後にばったり再会したと思ったら、その男の子には彼女がいた。なんかすごく辛くなって・・・何も知らない彼女に私は八つ当たりをしてしまった。最低よ、私。」
「・・・俺、全然気づいてなかった」
確かに俺って鈍いかも。
「ふふ。10年以上前の気持ちを未だに引きずってる私のほうがおかしいのよ。でも、宮本くん。もし藤枝さんとつきあってなくて、私と再会して告白されたらどうしてた?」
もし、俺が董子とつきあってなくて川辺と再会してたら・・・・
「俺さ、自分が課長になるとき董子を総務から引き抜いたんだ。それが3年前で、一緒に仕事をするようになったら仕事ぶりだけじゃなくて、本人が気になってきてさ。
気持ちを伝えるまで2年かかった。なんせ、董子は自分が好意を持たれてるなんて気づきもしない。」
「ちょっと、それノロケ?傷口に塩すりこむことするんだ、ひどいわね」
川辺があきれたように俺を見る。
「俺は川辺と再会したときに董子とつきあってなくても気持ちは向かなかった」
「やっぱり振られたか・・・・さて、私はもう帰るわ。」
川辺が席を立った。
「3人で食事しなくていいのか?」
「振られた直後にその相手と食事しろって?冗談じゃないわよ。・・・・宮本くん、藤枝さんに私が謝罪してたと伝えて。彼女は私には会いたくないでしょうから。」
「わかった」
川辺が店を出て行き、奥から松浦が出てきた。
「松浦は、川辺の気持ち気づいてたか」
「まあね。俺、川辺が好きだったから」
「は?!」
「でも、知ってたのは俺だけじゃないかな。」
「そうか。」
学生の頃、川辺が“宮本くんもブラックなの。私もだよ”と言い一緒に飲んだこと。そのあと、美味しいコーヒーが飲める店の話をしたこと・・・
「ミヤ、コーヒー飲むか?」
「ああ」
「ブラックか?」
「そうだな」
そして、苦そうな顔をしてコーヒー飲んでる川辺の姿をふと思い出した。
読了ありがとうございました。
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いささか、ほのぼのしてなかった気がします。
次こそは、社内にバレた。さあどうするみたいな話、書きたい・・・。




