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珍客万来の土曜日-3
松浦が「うちのお子様ランチは美味しい」と言いきっただけあって、確かに信史の前に出されたものは大人でも食べたくなるものだった。
ふわふわのオムライスに、デミグラスソースがたっぷり。小さいサイズだが、あつあつのエビグラタン。付け合せの野菜はにんじんとかぶのグラッセ。そして金色のコンソメスープだ。
「信史、にんじん食べられるお兄ちゃんってかっこいいぞ」
一瞬にんじんを見て嫌な顔をした信史を見て話しかける。
「ほんと?」
俺がうなずくと、信史はにんじんを口にいれた。
「おじちゃん、このにんじんあまいね。にがくない」
「そうか、よかったな」
それでも苦手らしく、信史はまずにんじんを食べてしまうことにしたらしい。
俺も自分の注文したチキンソテーを食べることにした。
8時を少し過ぎた頃、兄が戻ってくると信史はさっそく今日の出来事を話し始めた。
「それでね、どうぶつえんでゾウみたの。おじちゃんはさるがすきなんだって」
「へー。それは知らなかったよ。和哉、お前猿が好きなのか」
「え?あ・・・まあ、サル山が見てて面白いから」
「ねえパパ、にんげんかんけいのしゅくずってなに?」
「は?」
あ。と思ったときは遅かった。ここで言うのか・・・油断した。
「おじちゃんが、さるをみてると“にんげんかんけいのしゅくず”みたいって」
「ああ・・・なるほど。さて、そろそろ帰るぞ。信史トイレ行ってきなさい」
「はーい」
そういうと、信史はトイレにぱたぱたと駆けていった。
「和哉。サル山に哀愁感じるのは自由だけど、4歳児の前でいうなよ。あとで返答に困るんだから」
「悪い・・・でも、ほんとに兄さんに聞くとは」
「ははは。いいよ、適当に教えておくから。今日はありがとうな。」
「仕事のほうは大丈夫だった?」
「ああ。これで明日は一日信史と一緒にいられるよ。あ、今日いろいろ出費させて悪かったな。いくらだ?」
「いらないよ。その代わり、親には俺に彼女がいるってこと黙っててくれよな。知られるとうるさいから。時期を見てちゃんと自分から紹介するからさ」
「ふーん。そんなことでいいのか。ところでさ、どんな子か教えてくれよ」
「・・・俺の部下。課を新設したときに、前から仕事ぶりが気に入ってたから引っ張ってきた。」
「それで?」
「あとは教えない。」
「なんだよ、その秘密主義。どんだけ隠しておきたいんだか。」
兄さんが呆れてるけど、そんなことはどうでもいいので俺は黙って無視をした。
「じゃあな、和哉。今日は本当にありがとう」
「どういたしまして。またな、信史」
「おじちゃん、ばいばい」
「信史、駅まで歩けよ。パパは荷物が多くて抱っこは無理だ」
「うん、がんばる」
そう言うと、ふたりは手をつないで歩き出した。
信史といるときの兄は、父親の顔だ。俺もいつかはああいう顔をするのかな。
「もしもし董子?」
『和哉さん、どうしたの?もしかして明日会う約束、都合悪くなった?』
「いや?ただ、董子の声が聞きたくて」
『へっ??ど、どうしたの和哉さん?』
うろたえている董子の様子がおかしくて、そのまま黙ってると、心配そうな董子の声が聞こえる。
「大丈夫、明日話すよ。話したいことがたくさんあるんだ」
『そ、そう?本当に大丈夫?心配だなあ』
大丈夫だといい、明日の約束を確認して電話を切った。
彼女は俺が子供相手に一日過ごした話を聞いて、どんな顔をするだろうか。
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課長は董子のことは秘密主義のようです。




