2.
災難は忘れた頃にやってくる。の巻
クリスマスが過ぎ、年が明けた。正月ボケも消え、いつもの日常生活に戻っていく。隣には課長から渡されたデータの山・・・間違いなく残業だな。
宮本課長から分析資料の作成を頼まれたもののうち「これは最優先で仕上げてほしい」と言われたものの作成を終えて、現在は見直し中というところ。
私は少しだけ目をPCから離して、後輩の高橋くんと話す課長をちらっと見た。
課長は高橋くん相手にオニミヤモード全開だ。
「高橋。こんなふざけた分析しか出来ないのか?」
静かな声で淡々と話しているだけなのに、目の前でそれを聞かされている高橋くんは緊張している。「やり直し。」そういって返されたUSBを持って、高橋くんはへこんだ様子で席に戻ってきた。
高橋くんは二年目の社員で、のんきなお調子者だけど仕事はきちんとする。
課長はどなったりはしないけれど、淡々と理論的に言ってくるから何も言えない・・・高橋くん、頑張れ~・・・とまるで母親のような気持ちの私に課長の視線が向けられた。
「藤枝。資料は?」
「は、はいっ。あと5分で送信します」
「5分?3分の間違いだろう?」何言ってんだお前っていうのがミエミエのその言い方は、いただけないぞ、宮本!!
課長にうっとりしてる女性たちって、ほんと絶対間違ってる・・・。頭に浮かんだ思いつく限りの呪いの言葉を心のなかで課長にぶつけても誰も責めたりしないと思う。
休出のときの楽しい課長はきっと幻だったに違いない。
昼食時間になり、いつものようにお弁当を机の上で広げていると、そこに総務時代の先輩で課長と同期でもある秋山 響子先輩と同期で秘書課の中川 真生が顔を出した。
響子先輩には新人の頃からずっと仕事を教えてもらっていて、総務では課長よりも頼りになると言われているくらい仕事ができる。細い小豆色のフレームのメガネをかけて髪の毛を一つにまとめた先輩の見た目は「お局」そのものだ。
真生は同期で、見た目はふんわりと甘い雰囲気の美人だけど実際は毒舌と鋼の心を持っている。それが「ギャップ萌え」と言われてるんだとは、本人の弁。
2人とも、私の大切な友人だ。
それにしても、めったにフロアから出ない秘書課の真生と、総務で食事をしていることが多い響子先輩が一緒に3課に来るなんて珍しいこともあったもんだ。
「珍しいね、二人が一緒に3課に来るなんて」と言いつつ、私がお弁当箱を開けようとすると響子先輩が口を開いた。
「藤枝。今日は私たちと一緒に社食で食べない?中川も今日はたまたま時間が空いてるんだって。3人で食べるってなかなかないことじゃない?」
「社食に行こうよ董子。」真生も口を出す。
「でも、私がいないと3課に誰もいなくなっちゃう・・・」と言いかけると、響子先輩がまだ席にいた課長に顔を向けた。
「宮本くん。藤枝さんをお昼に連れ出してもいいわよね」
「藤枝、高橋を残すから、秋山さんたちと食事に行ってきてかまわないよ」
「は、はい。わかりました」
私がお弁当袋をもって席をたつと、ちょうど打合せから戻ってきた高橋くんが課長に留守番を命じられていた。
社食はまだ混雑していなかった。空いている座席を確保すると、お弁当を持っている私と先輩はそのまま座席に残り、真生だけが本日のランチを購入するために、カウンターに向かった。
本日のランチは鮭のホワイトソース焼きに雑穀とオクラ、トマトのマリネ、サトイモの煮物と雑穀米に根菜たっぷりのお味噌汁・・・社食でもよかったかもしれない。メニューをチェックしとくんだった。
久しぶりに3人で雑談に花を咲かせて昼食を終え、次の人に席を譲るため席を立つ。
「まだ時間あるわよね。休憩室にでも行こうか」
昼休みだというのに、社食が混雑しているせいか休憩室は珍しくすいていた。
飲み物を買って、3人でソファに落ち着く。
「ねえ藤枝。」
「なんですか、響子先輩」
「私たちが口軽くないの知ってるよね」
「はい。知ってます」
「「だったら、どうして話してくれないのよ」」
なぜか二人は目をキラキラさせながら私を見る。
「な、何を話すって??」
「何をって・・・もう、とぼけちゃって!!私たち、藤枝を応援するからねっ。秘密にしておきたい気持ちは分かるけど、直接教えてほしかったなあ」
「課長と董子はお似合いだと思うよ。よかったね、董子。」
二人ともなぜかハイテンションで口が挟めない・・・・なぜ課長の名前が出る?
「あのー、二人とも。どうして課長が出てくるのかな」
やっと私が二人に割り込むと、二人は「え」と言う顔をして、真生が口を開いた。
「え。董子、宮本課長と付き合ってるんだよね?」
「は・・・はあああああ??」
読了ありがとうございました。
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ここから短編の続きになります。
登場人物表に出ていた響子と真生が初登場です。
ただの休出でここまで話が広がるって・・・
さすが小説。