3.
美味しくいただく。の巻
R-15です。
少し長め。
課長と駅で待ち合わせをし、買い物と食事を済ませる。そのあとに向かったのは、駅から歩いて10分くらいの場所にある、3階建ての薄茶色のマンションだった。
「オートロックだから、あとで暗証番号を教えるね」
「そ、そんな大事なことを簡単に他人に教えちゃだめです」
「そう?・・・・これからじっくり教えればいいか」
「あ、あの。今何か言いませんでした?」
「ん?何でもないよ。さて、行こうか」
課長はにっこりと私を見て笑い、手をぎゅっとつなぎなおした。
まるで、もう逃がさないって言われてるみたいで、私はちょっとだけ背筋がぞくっとした。
課長が番号を入れて鍵の開く音がする。
「さあ、どうぞ」
「お、お邪魔します」
課長の部屋はマンションの3階で、南向きの角部屋だ。今日は天気がいいから外の光が部屋を明るく照らしている。
玄関をあがると、キッチンスペースのそばには、小さめのダイニングテーブルとイスが二つ。その奥には、茶色のロースタイルのソファに木のテーブル、テレビ。テーブルの上にはノートパソコンがある。
課長にすすめられて、私はソファに座った。すこし沈み込む感覚があって座り心地のいいソファだ。課長が持ってきてくれたティラミスは軽く4人分はありそうな大きさだった。
私に紅茶を渡すと、課長は一緒に持ってきたスプーンで小皿に取り分けながら部屋の説明をしてくれる。
「右の部屋が寝室。左の部屋は、ほとんど物置。」
「宮本さんの部屋はきれいですよね~。私の部屋はもっと雑然としてて・・・見習わなくちゃ」
「董子が来るから、ちょっと頑張ってみました。普段は見られたもんじゃないよ」
課長のちょっとおどけた口調に、私は緊張がほぐれてくる。
「はい、食べてみてくれる?」
「いただきます」マスカルポーネの濃厚さにコーヒーのしみこんだスポンジ生地が美味しい。「そういえば、董子はティライスの意味って知ってる?」
「意味ですか?さあ・・・」イタリアのお菓子だってことは知ってるけど、意味までは知らないや。
「俺もパティシェの先生に聞いて初めて知ったんだけどさ、“私をひっぱりあげて”とか“私を元気にして”って意味らしいよ。」
「面白いですね」
ティラミスを食べてる私の隣で、課長はコーヒーを飲んでる。外は気持ちのいい天気で、部屋の中は暖かい。なんかすごくくつろいでしまう。
「・・・ごちそうさまでした。とても美味しかったです。」
「よかった。」課長はそういうと、私をぎゅっと抱きしめた。
「み、宮本さんっ」
「・・・悪い。ちょっと余裕がなくなってきた」
そういうと、課長は私に深いキスをしてきた。まったく・・・課長はキスが上手すぎる。
私の力が抜けてきたのが分かったのか、課長はいったんキスをやめて「董子、寝室にいこ?」と耳元でささやいてきた。
私は、黙ってうなずいた。
課長の寝室は、セミダブルサイズと思われるベッドとクローゼットだけのシンプルなものだった。
私はゆっくりとベッドに倒されて、課長を見上げる形になっている。
「み、宮本さん・・・」
「和哉」
「か・・和哉さん。あの、先にお風呂・・・」
「あとで一緒に入ろうね。だから・・・」そういうと、課長は私にキスをしながら、服のうえに指をすべらせていく。
唇だけじゃなくて、耳や首筋・・・鎖骨。服で隠れて見えない場所には跡をつけるみたいに。
「董子に俺のしるしをつけたい」
課長はそういうと、私の全身をくまなく愛してくれる。私がぐったりしていると、素肌の課長にぎゅっと抱きしめられる。
「・・・私、その、すごく久しぶりで」
モトカレと別れてからは、ぜんぜんそういうことになったことはない・・・もう3年近くだ。
「偶然だな。俺も久しぶりだよ。だから、あんまりうまくないかもね」
「・・・うそ・・・んんっ」
ゆっくりと私の様子を見るように始まって、そのまま激しく溶かされてしまう。私の声とベッドのきしむ音、課長の余裕のない表情と、繰り返される甘い言葉。何度も高みにのぼって、最後は目の前が真っ白になって、お互い抱き合いながら一緒におちていく。
そして、課長はうそつきだ。
読了ありがとうございました。
誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。
ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!
細かい描写は皆様の想像にお任せいたします。
ちなみに私がティラミスの意味を知ったのは
「○レーテルのかまど」からです。あの番組、大好きなんです。
副題の「美味しくいただく」
董子と課長の意味するところは、大いに違いますね、きっと。




