1.
策士宮本と一枚の紙。の巻
「ミヤ。これにつきあえ」
いきなり俺の家にやってきた松浦は一枚の紙を俺の前につきつけた。
「・・・・パティシェに教わる男性から女性に送るお菓子・・・・なんで俺が」
「もうすぐホワイトデーじゃないか。」
「そうだな」
俺はテーブルの上に置いた箱に目をやった。中身は紅茶のティーバッグのセットで、昨年配って好評だったものだ。明日はこれを仕事の合間に配らないといけない。
松浦はテーブルの上に置いてある箱を見て「これ義理用のお返しか?」とちょっと驚いていた。
「そうだ。昨年同じものを配ったら好評でな。選ぶのも面倒くさいから同じものにした」
「いったい、何個入ってるんだ。これ」
「35個だったかな。董子にもらったリストに書いてあった人数分」
「董子ちゃん、これみて焼餅やかねーの?」
「・・・・まだ、ここに来てない」
「はあっ?お前、まだ連れ込んでなかったのか。うわー・・・奥手なミヤって想像つかねえ・・・」
「お前に言われるのは心外だ。」
「へいへい。さ、俺の作った夕食をありがたく食えよ。」
「その上から目線の態度はどこから出て来るんだ」
俺の反論などまるで聞いてない松浦は、さっさと食器棚から勝手に皿に取り出すと料理をあけレンジで温めはじめた。
「先代と先々代も、おまえの食生活心配してるんだよ。“宮本くんは激務だろうから大変だな”ってね。もっともそのあと“自炊が楽しくなると来なくなるから、それもつまんねーな”って言ってるけどな」
松浦は、店で本格的に働くようになってから自分の父と祖父のことを「先代」「先々代」と呼ぶようになっていた。
「ま、それはともかくだ。ミヤ、俺と一緒にこれに参加しよう!!」
そう言って、ふたたび“パティシェに教わる~”を俺の前に出す。
「だから、どうして俺がお前とそれに参加しなきゃいけないんだよ」
「それはだな。俺がこのパティシェの作った菓子が好きだからだ。ミヤもさ~、董子ちゃんに手作りの菓子あげたらどうだ?“課長が手作りしたんですかっ?”ってきっと目を丸くしてさー、想像すると楽しいよね~」
松浦に言われたのは非常にしゃくだけど、確かに董子のリアクションを想像すると楽しいかもしれない・・・。
それに松浦が見込んだパティシェだったら間違いない。さらに手作り菓子を食べてほしいとか言って、董子を部屋に入れるなんてことも可能だよな。ま、食事だけで済ませるつもりはさらさらないけど。
「わー、ミヤが悪だくみをしてる。董子ちゃん、ほんとにこんな男でいいのかね~」
松浦が俺の顔をみてやれやれと首をふっていた。
「教室は今週の水曜8時だからな。エプロンとか持ってるか?」
「たぶん・・・」なーんか、昔買ったような気が。
「しょーがねーな。店に寄れよ。俺の貸してやるよ」
「悪いな」
料理教室が終わったら、エプロン買おうかな・・・俺は松浦の話を聞きながらぼんやり考えていた。
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