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天使の前髪  作者: 春隣 豆吉
藤枝董子の厄日もしくは・・・
2/73

1.

変更と追加箇所がありますが、内容は短編と変わりはありません。

 私、藤枝董子の上司である営業企画部3課の宮本課長は、背が高くスマートで、きりっとした二重の目にすっとした鼻筋、引き締まって口角の上がっている口・・・とイケメンの部類に入る顔。さらに仕事もバリバリこなすやり手。簡単にいえばイケメンのエリートってやつだ。

 そんな課長に憧れる女性社員は数多く、宮本課長が新設される企画3課の課長だと発表されたときには“我こそは”と3課勤務を希望した女性社員が続出したらしい。

 だけど、そんな課長が白羽の矢を立てたのは私だった。総務課長から3課への異動を打診されたときには、課長のファンからいじめられるのではと恐ろしくなった。

 ”藤枝さんがいなくなると困るから断ってもいい”と総務課長から言われ、私は断る気満載でいたんだけど、どうやら私が知らない間に何らかの取引があったらしく、気がついたら私の3課への異動は決定事項になっていて断れなくなっていた。

 そして一緒に仕事をして分かったこと・・・それは宮本課長が仕事に関しては非常に厳しく容赦のない人だということだ。自分にも厳しいが部下に求めるレベルも高く、そのため密かに周囲では「鬼の宮本:通称オニミヤ」と呼ばれている。

 一方で部下へのいたわりを忘れない課長は、恐れられているけど慕われてもいた。


 あれから3年。異動して一年目に彼氏の浮気が原因で別れた私は、それから全然恋愛に縁がない。

 恋人の必要性を感じなくなっている自分がいて、そこはちょっとオンナとしてまずいのではないかとちょっと思いつつも、仕事は楽しいし日常生活に問題はないので不満を感じていない。

「藤枝さん、ちょっと来て」

 宮本課長が、私に声をかけてきた。PCで送信した資料にミスでもあったのだろうか。私としては完璧に仕上げたはずなんだけど・・・ちょっとビビリながら私は課長のもとへ行く。

「何でしょうか、課長」

「藤枝さんは、明日の土曜日って空いてる?」

「はい?」

 どうして私の土曜の予定などを聞くんだろう?まさか、デート・・・・それはないな。課長のデート相手はナイスバディーでフェロモン満載のセクシーダイナマイツか、課長と似たタイプの女王様以外は想像がつかん。

「実は、資料作りを手伝ってほしいんだ」

 私の妄想なんか知らない涼しい顔をした課長の言葉がふってくる。

「・・・資料作りですか。」

「そう。皆用事があるみたいだし・・・藤枝、どうせ暇だろう?」

「確かに、これといって用事はありませんが。課長は忙しくないんですか?」

 宮本課長って、いい上司なんだけど、たまに私に対して決め付けた口調で物を言うのよね~。ま、確かに私は暇ですけどねっ。それにしても、なぜ急に「藤枝さん」が「藤枝」に変化したんだろう。

「・・・私もこれといって予定はない。藤枝が手伝ってくれると非常に助かる。頼む」

 宮本課長の口から「頼む」が出ると言うことは相当お急ぎということだ。私は内心“手伝ってあげてもよくってよ。おーほっほっほ”と思いながら「・・・分かりました。土曜日だけでしたら手伝います」と承諾したのである。


 休日出勤だから制服は着なくていいと課長に言われたため、私はツイードのコートにプルオーバーとスカート、それにカラータイツとブーツというほぼ通勤服。課長のほうもフランネルのチェックのシャツにコーデュロイのパンツというカジュアルな格好。椅子の後ろに黒いダウンジャケットがかかっていた。

 なんかスーツしか見たことないから、課長が若く見える・・・・いつもは細い黒フレームのメガネなのに休日だからか、ネイビーのカジュアルな雰囲気のメガネだ。

「なんだ」私の視線に気づいた課長が訝しげにこっちを見る。

「いえその、若く見えるなあとおもって。」

「俺は34だ。藤枝と変わらん」

 そういえば私と課長って4歳しか違わないんだっけ・・・。

 課長って休日になると「私」じゃなくて「俺」になるのか。ほほう。

「それもそうですね、失礼しました課長」

 私が頭を下げると、オニミヤは「これが概要になる」と資料を渡してきた。

 その後は、それぞれの席で黙々と仕事をし午前中に資料を作成することができた。

「よし、さすがは藤枝だな。いい資料ができた。藤枝は昼飯どうするんだ?」

 このあたりはオフィス街で飲食関係は土日休みのところが多い。一駅先の繁華街に行ったほうがよさそうだ。

「どこかで適当に食べて帰ります」

「そうか。じゃあ一緒に昼飯を食べよう。お礼におごるよ」

 課長はそういうとコートをはおって帰宅の準備を始めた。

「は?」

「藤枝、何ぼんやりしてるんだ。」

「は、はははい」

 私はあわててコートを着て課長のあとを追った。


 課長が連れてきてくれたのは一駅先の繁華街の裏通りにある洋食屋だった。

「ここは俺の友人が経営してるんだ」そういうと、課長は店の扉を開けた。

 裏通りにあるせいか、あまり待たずに座ることができた。

「課長のお友達に料理人がいらっしゃるとは知りませんでした」

「この店は俺の友人で3代目になる。何を食べてもうまいが、グラタンかオムライスがおすすめだな」

「そうですか・・・何にしようかなあ」

 メニューを開くと、海老グラタンやポテトグラタン、チキングラタンなどが目に入る。隣のページにあるオムライスも美味しそう・・・

「課長は何にするんですか?」

「俺はハンバーグランチ。」

「グラタンとオムライスを勧めておいて自分は違うの食べるんですか。」

「俺が何度も食べて美味しいと思ったから、藤枝に勧めたんだ」

 なるほど、それも一理ある。私は、チキングラタン温野菜セットを注文することにした。

「お待たせしました。・・・・ミヤがここに女性連れで来る日がとうとうきたか」

店主さんらしき人がニヤニヤしながら課長に話しかける。

「食事をおいたら戻れよ。藤枝、コイツは松浦。ここの3代目だ。松浦、彼女は俺の部下で藤枝・・・」

 そこでなぜか松浦さんが「ちょっと待った・・・藤枝さん、下の名前当ててみせようか」と課長を制止して私を見た。

「藤枝さん・・・下のなまえ“とうこ”じゃない?」

「はい。そうですけど・・・」

「やっぱりね・・・・ミヤ。お前、天使の前髪をつかんだわけか」

 なぜかすごく嬉しそうな松浦さんと、それを嫌そうに見ている課長。私の下の名前がどうしたというのだろう。

「さっさと厨房に戻れよ。藤枝も、松浦の言うことは気にするな。さっさと食べろ」

「はい。でも課長、松浦さんが言ってた天使の前髪をつかんだ、ってなんですか?」

「・・・・今は聞くな。あとで教えてやる」そういうと、課長はハンバーグランチを食べ始めてしまった。


 結局、課長は「天使の前髪」については話してくれず、私のほうも“課長が言いたくないなら聞かなくていいや”とあっさりあきらめた。

 オニミヤは話題が豊富で意外と一緒に食事をして楽しかったのは思わぬ収穫。話の流れで、課長が最近、私と同じ沿線に引っ越したということまで判明した。

 これから朝、課長にばったり会うことがあったりして・・・う~~ん・・・でも遠くから眺める分には眼福だから、まあいいか。

 私は休日出勤をして損した気分だったのだが、家に到着するころには悪くない一日だったと思うようになっていたのである。


読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!


今回は現代物です。

短編で「続きを読んでみたい」とありがたい感想をいただいて

調子に乗ってしまいました。

第一章の区切りがつきましたので、UPします。

4話で完結します。

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