2.
足下から鳥が立つ。の巻
私と課長が二人揃って残業のときは、たいていどこかで夕食を一緒にとる。もっとも、普段は私の退社時間が早いので二人揃っての夕食なんて、週末のデートのときくらいしかない。
同じ会社にいても、課長の忙しさは一般社員の私と違う。だから連絡手段はもっぱら電話かメールで、あとはたまに休憩時間が重なって一緒にお茶をするくらい。
課長のほうは私と付き合ってることを隠す必要はないって言うけれど、私のほうがまだ周囲にばれてほしくないのだ。
課長にあこがれている女性社員は数多い。そして果敢にアプローチをして玉砕した女性は皆、社内でも有名な美人さんばかりで・・・私はそういう人たちとはまるっきり違うタイプ。
今までの彼女と違うタイプだから興味をもっただけなのかもしれないとか、あっさり飽きられちゃうんじゃないかとか、こうして向かい合って私に会社とは違う表情を見せてくれても、心のどこかに不安がつきまとう。
「昼間、山崎が同期会とか言っていたね」
「山崎くんって同期のまとめ役みたいなところがあって、こっちにいたときは同期でよく集まってたから」
「確かに、山崎ってリーダー役って感じだよな」
「そういえば、響子先輩が宮本さんは同期のなかでもリーダー役だって言ってました。そういえば、2人とも雰囲気が似てるかも」
「・・・・そうか?」
なぜか課長は不服そうだ。
「山崎くん、まえに宮本さんのこと“あこがれの先輩”だって前に言ってましたよ。よかったですね」
「・・・董子はどう思ってるの?」
「え?わ、私は・・・」
「はいお待たせ。ミヤの鶏肉と野菜のカレー風味シチューと董子ちゃんの豚肉とキャベツの蒸し焼きマスタードソースだよ。」
「松浦。お前のそのタイミングはわざとか」
「あ、もしかして、いいムードだったの邪魔したか?それにしてもお前、そんなことでムッとするなよ。董子ちゃん、こんな男を選んで後悔してない?」
「後悔ですか?」
「だってさあ、俺にちょっと邪魔されたくらいでムッとするんだよ?小さい男だよねえ」
「えーっと」
「董子、松浦は相手にするな。松浦、料理置いたらさっさと戻れよ。」
課長はそういうと松浦さんに「しっしっ」と手をひらひらさせた。
「はー、やだねえ。ミヤだけさっさと素敵な子と付き合い始めちゃってさー。俺の前で幸せオーラを撒き散らしてんじゃないよ」
“素敵な子”・・・もう”子“って言われる年齢じゃないけど、やっぱり言われると嬉しい。
「松浦さん、付き合ってる方いないんですか?」
「俺?いないよ。」
「こいつは一人の女と長続きしないんだよ。」
課長がそういうと、松浦さんは「俺は“たった一人”と出会えるのを待ってんの」と言い、「コーヒーと紅茶は食後に持ってくるね」と私に微笑んで厨房に戻って行った。
「松浦さんって、結構ロマンチストなんですね。“たった一人”と出会えるのを待ってるなんて」
「あれは単にまだ特定の相手を決めたくない男の言い訳だ」
課長はバッサリと切り捨てるけど、そうかなあ・・・案外、松浦さんの本音なんじゃないかと思う。
「松浦さん、出会えるといいですね」
「・・・董子は松浦の所業を知らないから。あいつのことはほっておいていい。ところで同期会はいつやるの?」
「今週の金曜日に、会社の近くにある海鮮居酒屋です。あの、前に営業企画部で新年会をした・・・」
「ああ。あそこか。」
「私はあんまり飲めないので、いつも一次会だけで帰ることにしてるんです。遅くなると帰り道が怖いし」
「へえ。なるほどね。」
私はそのときの課長の口調にもっと気をつけていればよかったのだ。
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松浦が”たった一人”と会えるかどうかは・・・どうなんでしょうね~。
そして課長は何かを思いついたよう。