おまけ:ネクタイ事変
3課所属の高橋くん視点です。
俺の所属する営業企画部3課には鬼がいる。鬼といっても、仕事に厳しいことからそう呼ばれているだけであって、仕事ができるうえに部下の面倒見もいい鬼・・・・宮本課長を俺は尊敬している。
そんな課長は、イケメンでもあるので女性社員からも人気がある。今年のバレンタインは14、15日に課長が出張だと判明するや13日にチョコが集中することになった。
その集中するチョコを整理しているのが、3課唯一の女性社員である藤枝さんだ。何でも3課に異動したときに課長にチョコを渡してくれと頼まれたため、取りこぼしがあると後が怖いからとリストを作って課長にチョコと一緒に渡したところ、好評だったらしく頼まれるようになったそうだ。
席が隣のせいか、俺と藤枝さんはわりとよく話すほうだ。藤枝さんは俺より7歳年上らしいけど、ショートカットがよく似合う可愛らしい人で、仕事ができるうえに気さくな性格もあって実は男性社員の間では密かに人気があったりする。
だから、俺は同期や先輩たちから席が隣で羨ましがられることもあるのだ。
「俺も藤枝さんにリスト作ってもらえるくらい、もらってみたいっす」
「高橋くん、2年目でしょう?これからだよ。でも、最初に作ったときにずっと続くと思わなかったから、ちょっと失敗したなあって思うわ」
藤枝さんは、チョコに添えてある名前を入力しながら苦笑いをした。
「課長って、この量を一人で食べるんでしょうか」
「さあ・・・・聞いてみたら?それにしても高級チョコばっかりよね・・・・」
確かに、課長が藤枝さんに預けた紙袋から見えた包装紙は俺でも知ってるチョコブランドだった。
課長は藤枝さんが作成したリストとチョコをその日のうちに持ち帰っていた。
週があけて、課長が出社してきたけど、何か様子が違う。
他の社員も同じことを思っていたようだけど、誰も聞けないでいた。
藤枝さんも課長のほうをじっと見てたっけ・・・もっとも、藤枝さんのPCのディスプレイが課長の方向だから、それを見てたのかもしれないけど。
なんだか変な空気のまま、昼食の時間になる。社食は混雑していたけど課長が俺に気づいて手招きしてくれた。
そこで気がつく。そうだ、課長のネクタイだ。課長はいつも単色か同系色の模様のネクタイをしている。スーツを選ばないから便利でいいとか飲み会のときに言ってたような。 それが紺色とはいえ、課長にしては珍しいレジメンタルストライプのネクタイだ。いったいどういう心境の変化だろう・・・・?
「課長。ネクタイどうしたんですか?」
「これか?彼女にもらったんだ」
「えっ!!」
「俺に彼女がいるのはおかしいか?」
課長が俺の驚きっぷりに驚いている。課長を狙っていると思われる近くにいた女性たちは、すごい目つきでこっちを見ている。
「まったく・・・こんなところでする話じゃないんだけどな。高橋、驚くにしても声は控えめにしろよ」
「す、すみません。あの・・・・彼女はどういう・・・」
「それ以上は教える義務はない。」
「そ、そうですよね」
課長にじろりと睨まれて、俺は肩をすくめた。
確かに、プライベートなことだもんなあ・・・だけど、これで社内に「宮本課長に彼女がいる」って広まるだろう。
それにしても、宮本課長・・・・。なるほど、あのネクタイは彼女からのプレゼントか。いったいどんな人なんだろう。
昼食を終え、3課に戻ってくると藤枝さんが机の上で紅茶を飲んでいた。そうだ、チョコのリストを作ってる藤枝さんにはこの情報を教えてもいいよな。
「藤枝さん。課長が今日してるネクタイ、彼女からもらったやつだそうですよ」
すると、藤枝さんは一瞬お茶をうっとつまらせた。
「あ・・・そうなの。ふ、ふうん。」
「らしいですよ。どんな人なんでしょうね~」
「さ、さあね。私、あんまり社内の人のプライベートに興味ないけど、高橋くんは興味があるの?」
「でも、藤枝さん。来年のリストは少なくなりそうですよね」
「・・・確かにそうだね。これで時間もあんまり取られなくすむかも」
リストの話になって、藤枝さんがほっとした顔になった。
それにしても、課長の彼女って誰なんだろう?社内かな・・・いやいや社外か?
でも課長に聞くなんて暴挙は俺には出来ない。それよりも仕事をしなくては・・・俺は頭を切り替えるように仕事に没頭した。
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高橋くんが知る日は来るのか?
ああ、次章どうしよう・・・・
申し訳ありませんが、気長にお待ちください。