3.
案ずるより産むが易し。の巻(その1)
課長は私の手をつないだまま歩き出す。
「か、課長。手・・・・」
「藤枝は相変わらず手が冷たいな。手袋とかしないのか」
「歩くから、熱くなると思って・・・じゃなくてっ!あの、いつまで手をつなぐのでしょうか」
「嫌か?」
「え、えっと。い、嫌ではありません。ただ・・・その恥ずかしいです」
そう、課長と手をつなぐのは嫌じゃない。だって、課長の手は好みなんだもの。やっぱり、私手フェチかもしれない。
「大丈夫だよ、藤枝。だれも俺たちを見てない」
そういうと、課長はにっこり笑った。そういうことじゃないんだよー、課長・・・。
公園までの通りにはカフェや、本屋、雑貨屋に洋服屋が並んでおり、どうやらメイン通りらしく天気がいいのもあってたくさんの人が歩いていた。
「公園に行って、戻ってくるときに店に入ってみる?」
「そ、そうで・・・そうだね」
課長の考えるペナルティが何なのか知らないけど、私が頭を抱えそうなものなのは間違いない。避けられるものなら避けたほうがいいし・・・が、頑張ってやろうじゃないのさ!!
それにしても課長、自分で敬語を使うなと言っておいて私が使いそうになってあわてて言い直すのを見てつまんなそうなのはどういうわけだ。
それにしても、いつチョコとネクタイを渡そう。あんまり遅いと溶けちゃうし、かといって歩いている最中に渡すのは論外。
「藤枝?」
「はははいっ?」
「何をぼんやりしてるんだ」
「へ?ぼんやり?まさか~、してませんよ。あ、ほら課長。この食器かわいいですねえ」
ちょうど通りかかったウインドウは食器屋らしく、きれいなお皿やカップが並べられている。
アイボリー色にスタンプで押したようなブルーの花柄が規則正しく並んでいるカップは、前にテレビで見たポーランド陶器みたいだ。
「藤枝はこういうのが好き?」
「はい。でも普段使うんじゃなくて、とっておきの日に使いたいかな」
「とっておきの日?」
「何の予定もなくて午前中のうちに掃除も洗濯も終わらせたら、とっておきの紅茶を入れて、とことんのんびりするんです。」
そのときには前日に借りたDVDとかを見たり、本をよんだり。私の至福の時間なのだ。
「そうか、藤枝はそうやって休日を過ごしているのか。なるほど。だけど、そういう休日は減ると思うよ」
「え」
どうしてですか、と聞こうとして思いとどまる。そうだ、課長と付き合ってるんだ、私。
「藤枝のいれた紅茶、俺も飲んでみたいもんだ」
「そ、そうですね。」
「よし、言ったな」
到着した公園は広々とした庭園に、明治時代の洋館が移築されている。料金所でもらったパンフレットによると、4月から5月にかけてチューリップが見ごろになるらしく、あちこちにある花壇でさまざまな種類を栽培しているそうだ。
「4月から5月に来ると、きっとチューリップがきれいですね」
「その頃になると、もっと暖かくなってるよな。また来るか?」
「そうですね」
押し切られた形で始まった付き合いだけど、一緒にいて苦痛じゃないのは私が課長のことをもっと知りたい、課長と向き合いたいって思うようになったからだ。
それを今日、課長に言うんだと私は密かに決意していた。
読了ありがとうございました。
誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。
ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!
課長と董子の初デートがどうして街歩きになったかというと
場所を特定するデートはあとで書こうと思ったからです。
BSでやってる「世界街歩き」が結構好きなのもあります。