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結局入院はしなかった。

泰とたく兄が個室に入れられたのも病院の都合だったらしく、泰の知名度の問題とかではなかったみたい。

念のためにと絢子さんが運転するたく兄の車に泰と二人同乗させてもらった。

どういうわけか泰が泊るホテルで泰と一緒に私も降ろされた。

チェックインするときも腰から手を泰が離してくれなくて宿泊カードに人の名前を勝手に書いて「婚約者」とか書いているし、そんなの書く必要ないじゃんって怒鳴りたかったけど、フロントに長くいると目立って嫌だからさっさと立ち去る方を選んだ。


部屋に入るや否や即座に抱きしめられた。

熱くて甘いキスを何度も浴びせられる。

数え切れないキスの後、長くて甘い口づけに変わった。

泰のシャツの胸元を掴んでいた手を払われて、ワンピースのボタンを泰が外し始めたところで我に返った。


「ちょ、ちょっと待って。」


「待てないよ。いや、違う。散々待ってたから。最後の日なんか鍵かけられちゃうし。」

ブツブツ言いながら手を休めなかったのでブラウスなんかより数の多いボタンの全て外された。


「い、いや、だって、っていうか」

そのまましゃがみ込んだ泰は私のジーンズのボタンを外してしまう。


せめてシャワーくらいは浴びたい。

走れるところは走って病院に行ったから。


そう言いたいし、泰作業を止めたいし、でもその両方が叶ってなくてジーンズは脱がされ、立ち上がった泰がワンピースを肩から外しながら頬や首筋にキスをして、っていうか今舐めたでしょ!?


「シャワー浴びる時間くらい返してよ!!」


精いっぱいの力を込めて腕を突っ張らせて泰と私の間に空間を作って叫んだ。


「・・・了解。」


泰の拘束を解かれ、バスルームのドアを開けたところで泰が言った。


「その後は全部俺にちょうだいね。」


全部って・・・時間だけじゃないの?






蛇口を捻ってシャワーを浴びた。

お湯の温度をどんどん上げてもお湯は泰の体ほど熱くはならなかった。

入れ替わりで泰もバスルームへ向かった。

ソファーに一人で座っていたら視界の隅にベッドが見えてなんだか恥ずかしくて落ち着かなくてソファーの後ろに身を隠すように丸くなって絨毯の上に直に座っていた。


「それって隠れてるつもり?」


頭上から泰の声がした。

見上げたらタオルで頭を拭いていた。


「違うけど」


不貞腐れて頬をふくらまして視線を反らしながら答えた。


「じゃあ行こうか。」

そう言うと同時に泰に担ぎあげられた。

こういう時って「お姫様抱っこ」じゃないのかと思ったけど、立っている時より高い位置でも安定している視界は泰が子供の頃よりもずっと鍛えられた体になっていることを知らされる。


「ねぇ泰。」


「何。」


「こういう時って男の人と女の人どっちが先にシャワー浴びるのが正解かな?」


「知らないよ。どっちでもいいんじゃないの?」


黙ったままではいられなかっただけの質問に、黙ったままではいられなかったらしい泰がベッドへと移動しながら答えた。

私はベッドの上にそっと静かに降ろされた。

赤みを帯びた泰の瞳が私を見下ろしている。


「強いて正解を作るとしたら・・・『一緒に入る』じゃないの。」


口元だけで笑った泰の表情に、煽ってしまったと後悔して俯いたがすぐにおでこを押さえられ上を向かされた。


「操の目が潤んでて誘ってるみたい・・・」


「ちがっ・・」誘ってなんかいなって言いかけたところでキスされた。

それからバスローブの合わせ目の近くの素肌に何度も口づけをされた。

体の中が、頭の中が、ざわついていて騒がしい。

気持ちと思考とかがたくさんのことを叫んでいる。

音にならない声だけどうるさいくらいだ。

バスローブを脱がされてしまうと肌に直に触れられるそこから泰に全部聞かれてしまうんじゃないかって、泣き声とか怒鳴り声とか笑い声とか・・・全部。

静かに穏やかに生きて行こうって思っていたのに、泰といると気持ちが上へ下へ右へ左へって忙しい。

しかも泰は全部それを知っている。

そのことが恥ずかしくて癪に障って・・・

でも泰のテリトリーの中で泣いて、怒って、その後ちゃんと落ち着いて自分の足で立って前へと歩いている自分がいるのは確かだ。

泰と離れても大丈夫な自分がいる。

泰は遠くにいるけどちゃんと私の気配を探してくれている。

泰と繋がるのは苦しい、だから泰を離せなくなる。


「大丈夫?」


「うん・・・」


泰は遠くにいて絶対に私を見失ったりはしないから、、もしかして騒がしいままの方がちゃんと泰に私のことが見えて、それで私を見ている泰の姿が私の目に届く気がした―――――――。




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