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「お見合いなんてぜーったい嫌!!!」
リビングのソファーで雑誌を広げていた私に要兄さんと母が突然「見合い話しがある」と言い出した。
「でも、お相手はごく普通のサラリーマンということだし、スポーツもゴルフを趣味程度って」
そのそばで洗濯ものを畳みながら母は「頂いたお話」の詳細を話しだそうとした。
「ゴルフって、接待ゴルフとかしてるってことでしょう?最悪じゃない!」
「でもね、操。大原専務のお声かけだから、いつもお父さんの指導方針を応援して下さってきたから、顔を立てて上げて欲しいのよ。」
大原専務は父の現役時代の仲間で、引退した後は親会社のチームやスポーツクラブの運営管理を行う部署にいる。
チームに所属する子供たちの様子や力量に合わせて指導内容を替える(あの合宿先変更とか)父の良きサポーターだ。
「そもそも大原さんは私のことを良く知らないじゃない。」
父に娘がいるということで、存在は知っていても人物像を詳しく知られているとは思えない。
「要さんのチームの方が操のことを色々話しているらしいのよ。」
はぁ?
そっちだって良く知らないわよ。
何勝手なことを言ってくれているのよ!!
「それに忙しいサラリーマンも嫌。」
接待ゴルフ=休日出勤じゃない。
「お前職業で結婚相手決めるのか。」
大原専務に頼まれて写真と釣書きを持ってきたくせにずっと黙っていた要兄さんが突っ込んできた。
職業って大事じゃない!
共働きになっても構ないとは思っているけど、すれ違いで、一緒に過ごせる時間が少なくなったらダメじゃない。
去年結婚したくせに分かってないの?
それに要兄さんなんか引退したら無職と一緒じゃない?
それでどうやってやって行くつもりか、まずは聞かせてもらいたいくらいだわ。
いくら飛鳥義姉さんの実家が裕福だからって呑気すぎるわ。
黙って睨みつけていたら、母が間を取りなすように声をかけてきた。
「とにかく一度会ってどんな人か確かめてみたら?」
「時間のムダ。大原専務には自分で断るから連絡先教えて。」
「そんな、失礼な。」
「やんわり言ったって誤解のもとになるだけだよ。」
きっぱり言い切ると部屋の中がシンとなった。
「何を騒いでいる。」
外出していた父が帰ってきた。
「あなた。大原さんからの縁談のお話、操がお会いするのも嫌だって、言っているんで。」
「スポーツやっているヤツもサラリーマンもダメだって」
苦笑いしながら父に話す要兄さん。
「・・・まぁ、嫌なものは仕方がない。」
!!!
義理とかお世話になった方への感謝の気持ちとかを忘れない父にしては珍しい気もした。
私は父から教えられた番号に電話をした。
「もしもし、私藤沢克明の娘の操と申します。」
「大原です。どうしたのかな?」
「電話で大変恐縮ですが、先日頂きました縁談のお話、なかったことにして頂きのですが。」
「見合いは嫌か?」
「いやです。」
「・・・・だったら奥寺泰久と結婚してくれないか?」
はい?
「泰久に早く身を固めろって言ったら『藤沢監督の娘さんじゃなきゃ嫌だ!』と言ってな。」
あのばかやろー。
嫌だって何よ。子供じゃあるまいし。
頭痛くて、顔が引きつってしまった。
「それだから操さんの結婚が決まれば、泰久も諦めて見合いの一つでもしてくれるんじゃないかと」
大原さんも相当―――な気がした。
「だったら、私の結婚が決まったって言って泰に見合いさせればいいじゃないですか。」
「君はそれでいいのか?」
「構いません。」
「うーむ。」
どこが当てが外れたような言い方の大原さん。
泰の縁談が本当の目的なら私は関係ない。
何とでも言って下さい。
「いいの?」
受話器を置いた時背後から要兄さんの声がして振り返った。
「泰が他の女と見合いして結婚しても、いいの?」
「いいんじゃない?泰の人生だし。」
「諦めの悪いヤツも何だけど。お前みたいにすぐに手放せるヤツもなぁ。」
要兄さんの言いたいことが分からなかった。
手放すって何を?
私は何かを手放したつもりはないのに。