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そろそろ次の仕事を探さなくてはと求人情報誌を見ていたら「出掛けるぞ」と父に呼ばれた。
また、チームの雑用とか手伝わされるのかとげんなりついて行ったら駅で電車に乗せられた。
その後「乗換だ。」と言われて乗った電車はかつて「海に連れて行くぞ。」と言われてチームの合宿に連れていかれた海が行き先の電車だった。
「どこへ行くの?」
走り出した電車の中で父に尋ねた。
「海でも見に行こうかと思って」
父はそれきり何も言わなかった。
たどり着いた海はやはりあの浜辺だった。
何を話していいかも分からず、どんな顔をしたらいいのかも思いつかず波打ち際にしゃがみ込み行ったり来たりする波を黙って見ていた。
「泰久があの日全部話してくれたんだ。」
唐突に父が話しだした。
「あの日って?」
「お前が、匠の車で帰ってきた日だ。結婚を辞めるって言いだす前の晩。」
「あぁ・・」
「その時に全部知らされた。操がここに来るのを家族旅行だと思って楽しみにしていたことも。」
!
父に背を向けてしゃがみ込んでいた私は父の言葉を聞いて全身を強張らせた。
「仕方がなかったんだ。あの時はチームの中に」
「やめて」
耳を塞ぐように両手で頭を抱え込んで叫んだ。
後から知った。父が泰達の監督をしていた頃のチームには家庭が複雑な子が多かったと。
いつも利用している親会社の合宿所だと費用が高くなるので金額が安く抑えられる場所に変えたということを。
安くした分自分達でやらなくてはならないことを母や私が手伝うことになったということを。
なのに私ははしゃいで喜んで期待して・・・
「すまなかったな。」
「もう、いい・・・」
「今度は泳げる海にでも行くか。」
「あの水着は着られないよ。」
立ち上がり砂を払いながら答えた。
「そうだな。」
海に行きたかったわけじゃなかった。
今の父はきっとそのことを理解しているのだと感じた。
「お父さん、帰ろう。」
振り返り父に口元だけだったけど、笑って見せることが出来た。
「土産、買って来いって母さんが言ってたんだが。」
何がいいかと相談された。
「駅前にお店あったよね。そこ見て行く?それか乗り換えの駅にお母さんの好きなショップが入ってるからそこでケーキでも買って帰る?」
「そうだな・・」
父も静かに微笑んで見せてくれた。
それから元来た道へ進んで行った。
私は父の後を追ったが、一度振り返って海を見た。
見ればキラキラと輝いていた。
和香ちゃんの笑顔を思い出した。