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タクシーを降りたところで泰と別れて友達に連絡でもしようと思っていたら、また腕を掴まれて泰はそのまま部屋へ直行した。


「鍵ってフロントに預けるんじゃないの?」


泰の泊っている部屋のソファーに腰掛けてそう尋ねたけど、返事はなかった。

私も返事が欲しいとは思わなかった。


泰のお母さんが亡くなって泰が海外に行くことが決まった時、泰は住んでいた部屋を処分した。

お母さんの遺品はどこかに預けているらしい。

だからたまに日本に戻って来る時はホテルに泊まることが多い。

両親はうちに泊まればいいといつも言っているけど、泰がうちに泊まったことはない。


どうでもいいけど。


「何か食う?」私の隣りに座って泰が聞いてきた。


「いらない。」両腕を突っ張らせるようにソファーの座面に置いた姿勢のまま私は答えた。


「泣かないの?」


静かな声で泰が聞いてきた。私は泰の方に顔を向けた。

感情の籠っていない泰の顔。その瞳を私をじっと見つめていた。

しばらく黙ったまま見つめていたら目頭が熱くなってきて涙がこぼれ頬に一筋の道を作った。

私の肩を泰が抱え込んだ。彼の胸におでこを当てて私は声を殺すように歯を食いしばって泣いた。


しばらく泣いていると泰が私の前髪を書きあげるようにして顔を泰の方へ向けさせた。

涙は止まらない。泰が涙を掬うように私の頬にキスをした。

繰り返し。何度も。


「・・・操・・・」

静かな声で私を呼ぶ。静かに私をソファーに横たわらせながら・・・


「泰はダメ。」


「どうして?」


「泰は・・」

泰は唇を塞いで私の言葉を遮った。


『泰はスポーツマンだからダメ』


心の中、頭の中はそう叫んでいるのに体は抵抗しない。


唇が離されたところでもう一度言った。


「泰はダメ。」


「嫌だよ。」


溢れる涙が止まらない。

泰は私を横抱きにしてソファーから立ちあがった。

私は「泰はダメ」と言いながらも彼にしがみついて泣いている。


心の中が分からない。


ベッドにそっと寝かされるとまたキスされた。


さっきよりも長くて、深くて、そして甘い・・・


服の上から体中を撫でられる。

泰の手が熱い。

甘味を含んだ吐息が漏れる。

見つめられる瞳から目が離せない。

泰の瞳は熱を帯びているようだった。

片手で私の涙を拭って頬にその手を添えた。

もう片方の手で自分のシャツのボタンを外している。

私はゆっくりと首を左右に振る。

視線が止まったところで動きかけた口をまた塞がれた。


泰の口づけは私の唇だけなく、頬に、耳に、首筋に、鎖骨にと這って行く。

その時初めて自分の衣服が泰の手によって少しずつ剥ぎ取られていることを理解した。


「ダメだよ泰・・・」


言葉は抵抗を示していても体はおかしいほど泰に従順だった。

聴こえているはずなのに泰の行為は止まらない。


顕わにされた胸の頂きに泰が口づけをした時、私の両手が泰の肩を捕まえ初めて抵抗を示した。

泰が反応して私を見た。


「好きだから、操のこと。もう誰にも渡したくないから。」


涙が止まらなかった。

もう一度首を左右に振って「否」と無言で答えた。



二人の間で突っ張り棒となっていた私の両腕を泰はいとも容易く片手で取り払い、私の頭上に運んだ。



なすがままにされる口づけは熱くてこのままこの身が溶けて消えてしまうのではと思うくらいだ。

私の涙は止まらない。


いらない。いらない。

そんな情熱なんか欲しくない。

穏やかに静かに、愛する人と寄り添う様に生きていきたい。


なのに泰の腕の中はまるで溶岩のように熱くて、生きてはいられないと思えるほど不確かな足場は荒波の中のようにも思えた。

激しい痛みと怒りと苦しさと妬みと喜びと快楽と愛しさと安堵と、数え切れないほどのたくさんのものが渦巻いている。


閉じた瞼の向こうに和香ちゃんの笑顔と、夕焼けの浜辺が見えた。


「操?」

耳元に問いかけるような泰の声がした。

目を開けると泰の首に腕を絡ませてしがみついていた。

その腕を緩めたら泰と目が合った。


「間に合って、良かった・・・あの子からお父さん取っちゃわなくて、良かった・・・」


泣きながら呟いたらぼやけた視界の中で泰が静かに微笑んでいた。

繋がり合ったこの一瞬だけ心も繋がったのだと知った。-------------







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