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私、藤沢操ふじさわ みさおはプロ選手として活動する人やスポーツマンと呼ばれる人が


-----大嫌いです。


いえいえ、スポーツマンそれ自体を否定しているわけではないのですが、

スポーツマンの方々から交際を申し込まれたり、結婚を申し込まれたりするのが嫌なんです。

どうか私の関係のないところで勝手に運動していて下さい、って感じです。


ところが不幸なことに私の周囲にはスポーツマンはやって来ます。

いい迷惑です。


なぜなら、父は元プロ選手、現在は大手スポーツメーカーが運営するクラブのジュニアクラスの監督。

長兄のかなめ兄さんは現役プロ選手。

次兄のたくみ兄さん(私は「たくにい」と呼んでますが)は高校時代の怪我でプロは断念したものの現在スポーツトレーナーとしてプロ選手のケアに励んでいます。


彼らのせいで我が家には昔からそして兄達が結婚して独立した今もスポーツマンが多く出入りします。

そこで「操ちゃんならスポーツマンの家族だから理解がある」と思い込んで私に目をつけるのは止めて頂きたいものです。


そんな理解はしてません。


私はスポーツマンなんて大嫌いです。


スポーツマンなんてものに関わっていれば土日もなく練習だ試合だ合宿だ、と大忙しです。

ゆっくりデートもできません。優先順位ではデートは後の方になりますから。


要兄さんもたく兄も現在結婚して家庭を築いておりますが、お義姉さん達が「恋人」だった頃から見ていて痛感してます。

しかも結婚すれば体調管理だ食事制限だと気を遣わなくてはならないのです。


私が生まれた時既に父は監督業をしておりました。父はジュニアクラスの監督ですからチームに所属する選手の方は皆子供です。私と変わらない年齢の子供たちを優先する生活にはほとんど迷惑の一言に尽きることばかりでした。


夏休みになればいつもより過密スケジュールで練習。そして長期休暇中ならではの合宿、他チームとの試合とてんこ盛りです。


そんなわけで家族旅行にも行った記憶がありません。


一度父に「海に連れて行ってやる」と言われ、喜んで水着を母に新調してもらいましたが、予算がなかったとかで人手が足りないからと合宿の手伝いをさせられました。

私の母や選手(といっても私と同年代の少年たちですが)の母親達と一緒に彼らが練習をしている間に食事の支度をしたり休憩中に食べるスイカを切ったり、結局持って行った水着を着ることはありませんでした。

まぁ泳ぐような海でもなかったのですが。


スポーツマンてなんですか?


スポーツやってると偉いんですか?


夕日が沈みかけた浜辺を一人で散歩したことが今でも忘れられません。

あの海に私は誓いました。


スポーツマンとは関わらない。

スポーツに無関心なサラリーマンとでも結婚して穏やかに暮らそう。





********************





奥寺おくでら 泰久やすひさが私のクラスに転校してきたのは、この誓いを立てる1年くらい前でした。


彼は父親を亡くし、母親と二人で暮らしでした。

当時も今と変わらず物静かで、穏やかな少年でした。

まだまだ小学生ですから男性として意識したわけではありませんが、彼の態度や物腰は私の知るスポーツに関わっている少年たちの、乱暴なりがちな感じがなく好感を持っていました。


しかしやすが新しい学校に慣れた頃、彼が私の父のチームに入ったことを知りました。

あまりのショックに事実を知ったその日は泰とまともに目を合わせることができませんでした。


泰は何も言いませんでした。父と知り合いになったことも、兄達の後輩になったことも、そしてその後チームの中で頭角を現していたことも


何一つ・・・・・・


幸か不幸か分かりませんが、容貌がさほど悪くなかった私は中学高校時代、異性から告白されることが度々ありました。


運動部の方々には「今すぐ部活を辞めたらお付き合いしてもいい」と答えていましたが、実行した人は一人もいませんでした。

運動部に所属していない方とは「友達から」ということでお付き合いを始めますが、皆さん世間に名の知れつつある兄達と懇意にしたがるのです。


冗談じゃない、例えデートでも試合なんて見に行きたくはありません。


私の身元を知って告白している人にも警戒が必要なことを私は学びました。




高校の卒業式の日でした。

卒業後はプロの選手としてチームに所属することが決まった泰がなんの前触れもなく私に言いました。


「将来は操と結婚したい。」


「絶対、嫌。」私は即答しました。それに泰は私がスポーツマンの妻にはなりたくないことは重々承知のはずです。


「俺は絶対操を諦めない。」彼はそう言い残して去って行きました。


本当に勘弁して下さいって気分でした。


泰のことが嫌いではないことは認めます。泰のお母さんも優しくて大好きです。

でも彼と個人的に交際したり、ましてや結婚なんて、そんなものする気には到底なれません。

泰の生きる道、それは私にとっては受け入れ難いものだからです。

泰がスポーツと無関係に生きていく、それはどう見ても無理だということも知っています。

泰の技術、意思、周囲の期待を考えればいずれは世界へと舞台を移して行くのでしょう。

そんなことにお付き合いする気持ちには全くなれません。

私は私の愛する人とたくさんの時間を一緒に過ごすことが理想であり、夢であり、喜びなのですから。


絶対無理です。


卒業式以後、泰と会うことはなくなりました。

クラスメートだったので、連絡先もお互いに知ってはいましたし、泰のお母さんとは親しくしていましたが、泰からメールや電話が来ることは一切ありませんでした。

連絡を取ったのは泰のお母さんが亡くなったときでした。


それから数年後周囲の期待通り、泰のステージは海外へと移りました。

私と泰との関係はもうほとんどなくなったと行ってもいいようなものでした。


2011.1.2誤字訂正致しました。

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