彼氏募集中!発狂令嬢マリエリ様
「彼氏を探す努力はされていますの?」
マリエリを冷ややかな目で見下すのは、彼女の同窓であるクラーラ令嬢。
また、マリエリとクラーラ令嬢の共通の友人であるロミ令嬢も同席していました。
これは毎月恒例のお茶会にマリエリ様が押しかける、午後三時頃のおはなし。
「してないけど、彼氏が欲しぃ〜〜っの!」
「努力されていなければ、彼氏がいないのも道理。別の話題をお願いいたしますわ」
クラーラは話を切り替えようとしますが、次にマリエリが主張した言葉は同窓のお茶会に衝撃をもたらしました。
「彼氏、どこかに落としちゃったの……どこにいったのかな、クラーラは知らない?」
「いえ、ですが、私が知るも何もマリエリには彼氏がいないでしょう」
「うん、だから『彼氏を落としちゃった』って言ってるの。はぁ……彼氏どこに行っちゃったんだろう……」
マリエリは沈痛な面持ちで嘆息を吐きます。
それはそれは本気で真剣な顔です。
そんな悩みを吐露されても、彼氏がいないから欲しいと言い続けてきたマリエリを知っている友人らは困ったものです。
聴き手のクラーラ令嬢は同席者ロミ令嬢にこっそりと訊きました。
「マリエリ様は頭がどうかしているのかしら? ある程度はいつものことだけれど、今日は特別ヒドイわね」
「この前、マリエリ様は誕生日を迎えたから。一般的な令嬢は結婚が視野に入ってくる年齢だから、相当焦っているんだ」
「あぁ……一昨年から彼氏が欲しいと毎月のお茶会でおっしゃってたけれど、ついに発狂されたのね」
ふたりがひそひそ話を続けているとーー。
「聞こえてますよ! クラーラ、ロミ!!」
ーー『彼氏募集中』発狂令嬢マリエリは半ば八つ当たりの金切り声を上げました。
図星のようです。
そして、マリエリは毎月のお茶会で口にするお決まりの文句を言います。
「うぅ……彼氏、欲しい……」
マリエリの泣きべそが純白のテーブルクロスに沈みます。
貴族の常識のように語られる『婚約』。
そして、庶民の常識のように語られる『恋愛結婚』。
俗に『婚約』は強制、『恋愛結婚』は自由の象徴とされます。
なので、教養に縛られ、マナーを遵守しなければならない一般的な貴族令嬢は『恋愛結婚』の方に密かな憧れを抱きます。マリエリもご多分に漏れず『恋愛結婚』に憧れ、その前提条件である『彼氏』が欲しいと思ったのです。
その為には『婚約』などしていられません。
当然のことですが『婚約者』がいるのに『彼氏』を作ったりなどすれば、それは愛人・情人・いろ・情夫。醜聞に塗れた婚約解消が行き着く先。
そして、あれよあれよと御家は没落、家族は路頭に迷い、元令嬢は寒さに打ち震えながら無為な人生を終えるでしょう。
それぐらいの想像力は働いたマリエリは、まだ見ぬ『彼氏』の為、『婚約』だけはしないでほしい、『婚約者』だけはあてがわないでほしいと両親に懇願しました。
伯爵家のひとり娘であるマリエリに伯爵夫妻は相当に甘く、万が一『彼氏』ができなかった時の期限と条件なしに『婚約』だけはさせないと約束します。
そして、数年が経ち……。
『彼氏』もできず、『婚約者』もいない。
老嬢と成り果てる可能性に満ちた伯爵令嬢の出来上がり。
『彼氏募集中』発狂令嬢の出来上がりです。
愉快な喜劇に見えますが、当の本人にとっては残酷な悲劇でした。
それに巻き込まれた同窓の令嬢達にとっては、毎月のハリケーンです。過ぎ去るのを待つばかり。
さっさと結ばれて欲しいものですね。
はたして『彼氏募集中』発狂令嬢マリエリ様は想い人と結ばれ、結婚できるのでしょうか?
Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.
では、来月のお茶会で会いましょう。
明日の合言葉は「捨てられ新郎がいれば、拾う私あり」です。
どうかマリエリ様に彼氏ができますように。




