9,正体
柴田は思わず、男の上から降りた。
呼吸が乱れ、目眩がして気分が悪い。
「やっと一緒になれたね。」
その男の顔は、柴田だったのだ。
理解ができずに、ただ息を荒らげることしかできなかった。
今まで敵対して追ってきた相手が、まさか自分だったなんて。
「なんだよ。その顔。
覚えてないの?これ…俺たちがやったんだよ。」
周りを見渡すと専門学校の教室が血の海に染まっていた。
全員が席について死んでいたはずなのに、それぞれ倒れ、逃げ出そうとした形跡すら見て取れる格好で死んでいるもの様々だ。
そして、1番驚いたのは高橋と水野が死んでいること。
「そんな…どうして…だって2人は生きて…」
「生きてないよ。
最初から死んでいた。俺らが殺したんだから。
当たり前だろ?」
目眩がさらに悪くなり、段々と記憶が蘇ってくる。
全て思い出した…
あの時、柴田ではない誰かが自分の体を乗っ取り、クラスの人間を片っ端から殺していたこと。
だから各々の傷は綺麗とは言えずに、抵抗した痕跡が見て取れる死体だったのだ。
クラス全員にスマホのメールなど来ていない。
それは単なる柴田の妄想に過ぎなかったのだ。
現実は、柴田が暴れまくり、クラスの全員を皆殺しにした…それが真実だった。
そして、もう1つ思い出した。
我に返った自分は、やってしまったことの罪の後悔から「自殺」したということを。
「はぁ…はぁ…誰なんだお前は?」
「お前だよ。お前の中にいたもう1つの人格と言った方が正しいかな?
お前自身は俺がいることにずっと気がついていなかった。
小学校で親友を殺した時も、中学の時、公園で親友を殺した時も、高校で親友を殺した時も、俺という存在を無意識に切り離して『仮面の男』として成立させることで自分のせいではないと思うために目を逸らしたんだ。」
「待て、それは高橋と水野の…」
ここで2人の死体が教室にあることを思い出す。
「あの2人はお前が都合のいいように作り出した存在。
死んだ後もお前は自分のせいにしたくなくて、俺を自分から切り離した。
だからカードでも言っただろ?『2つで1つ』俺たちは元々1つだったんだよ。」
目眩が酷くなり、さらに記憶が思い出される。
小学校、中学校、高校と自信が親友を殺していたこと。
あの夢のような場所に高橋と水野が現れない理由はそれだった。
自分がその場にいたのだから、いるはずがない。
そして、殺した後の反応が怯えていたのも、柴田本人に人格が戻ったから…
「誤算だったのは、この惨状を見た時、自殺するとは思わなかったことだ。
それは受け入れようとしたが、死んでもなお、俺を切り離した。
1つにならなければ、この場所に留まり続けるだけ、再び1つになるために、記憶のないお前を俺の元へと呼び寄せた。
そのためのゲームだったんだ。
あの2人が消えたのは真実に向かおうとしたからだ。」
柴田はその場に崩れ落ち、泣き出した。
今までのこと、全ての真実を知った時、絶望が一気に押し寄せてきたのである。
「オオカミやカラス、フクロウは死を連想させ、死を運ぶとも言われている。
そしてベニクラゲは死んでも蘇る、新しい自分を作り出して。
そんなふうに、お前は俺の存在を否定しようとしたんだ。
自分ではない何者かを作り出すことによって。」
自分のもう1つの人格が柴田の方へと近ずいてくる。
「嫌だ!嫌だ!来るな!」
「お前は真実を知った、これでもう離れることはできない。」
「嫌だ!違う!お前は俺なんかじゃない!
来るな!来るな!来るなぁぁぁぁぁ!」
現実世界にて…
クラス大虐殺事件は犯人の自殺により、幕を閉じることとなった。
クラスメイト全員を殺したと思われる生徒はナイフを自身の首に突き刺した状態で見つかったという。
誰も知らないことだが、彼のスマホにはベニクラゲが写っており、また新しい自分を生み出していた。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。
どうでしょうか?ミステリーとして描いた本作。
かなり伏線を貼っていたのですが、なかなか考えるのが難しいと感じました。
作中で語ることの出来ない伏線としましては、
最初、高橋の話し言葉は「」のみとなっていますが、妄想がスタートした時からは『高橋「」』という形になっています。水野も同様です。
逆に、柴田と仮面の男は「」だけ、これは2人が同一人物であることを表しています。
こんな伏線を貼ってみましたが、面白かったでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。




