救助活動
レオンは魔道具の店から出る。
市場で昼食のパンと夕食のパンをまとめて買う。
パンが詰まった紙袋を抱え、ウルフィリアギルドまで戻っていると、焼き肉屋の中でヴィミが肉を食らっている姿を目撃した。
テーブルの上に何枚もの皿が重なっている。
――お金が目当てじゃなくて、本命はこっちか。
お金の使い方は人それぞれ、他人が口出しする分野ではない。
レオンは大食いしているヴィミを無視してウルフィリアギルドに戻る。
☆☆☆☆
次の日。レオンは早朝にウルフィリアギルドの食堂にいた。
目の前に八人前のサンドイッチを食らっているヴィミがいる。
「よく食べるね」
「別にいいでしょ。あんたには関係ない」
――ヴィミは大食いなのに、体が綺麗だなぁ。無駄な脂肪や筋肉が付いていないしなやかな肉体美。きっと芸術家が女性の体を描いたら彼女のようになるだろうな。胸はないけど、それはそれで魅力的。
レオンはヴィミに睨まれ、珈琲を飲みながら視線を逸らす。
「今日は昨日に行方不明になった冒険者パーティー四名を探すわよ。中層に行けるほど実力がある冒険者パーティーじゃないらしいから一二層までにいるはず。新人冒険者だと思うし、六層辺りかしらね」
「六層、……シャドウウルフが原因かな?」
「可能性はあるわね。覚悟しておいた方がいいわ」
ヴィミは低級の救助カードをレオンに二枚手渡す。
怪我人を生身の状態で地上まで運んでいるとその間に手おくれになってしまう。
そのため救出時は、救助カードを使って即座に保護できるように救助隊ギルド側から救助カードが支給される。
「今回は昨日よりまったりしていられないわ。すぐに『落とし豚』まで移動。わかった?」
「わ、わかったから、食べながら話さないで」
レオンとヴィミは朝食をすぐに終えた。その後、『落とし豚』まで移動。
『インフィヌート』に入り、行方不明となった冒険者パーティーを探す。
その際、ヴィミは鼻をスンスンと鳴らして迷いなく突っ走った。
「なんで、そんなに迷いなく走れるの?」
「冒険者ギルドから行方不明者のにおいが付いた品が送られてきてたから、そのにおいを追っているの。上層の内部は雨が降らないからにおいは消えにくい。今も残っている。運がいいわ」
ヴィミは一切迷わず進み、速度がどんどん上がっていく。
昨日より、手加減しており、レオンも付いていけた。
ただ、少しでも遅れたら彼女が踏み抜いた罠の発動と被り、死ぬ可能性が高い。
彼女は一切止まらないため、レオンは無我夢中で付いていくしかない。
二〇分と掛からず初心者殺しと呼ばれる魔物が発生する六層に到着。
その瞬間、ヴィミは立ち止まる。
ヴィミの背後を追っていたレオンはすぐに止まれず、後ろから抱き着いた。
――き、木? いや、温かいから人間か。日向ぼっこした後の猫のにおいがして、心が落ち着く。
レオンがヴィミに抱き着いていると、力いっぱい投げられた。彼は着地と同時に受け身を取り、死ぬのを回避。
「いつまで抱き着いてんの。バカなのっ」
「ご、ごめん。でも、ヴィミが急に止まるから」
「まったく。距離間を保ちなさいよ。ここの階層、においが強い。集中して探すわよ」
ヴィミはまるで何事もなかったかのように六層で捜索を念入りにこなす。
彼女の機嫌が悪くならないうちに、レオンもあとに続いて歩いた。
六層を歩く際、特に『陰』に気を付けなければならない。
新人冒険者のほとんどが六層から下の層に行けずに引退する。
ここまでは腕に自信がある者なら、サクッとこられる。だが、伸び切った鼻をへし折る一種類の魔物が存在した。
普段は姿形が見えず、においがなく、動く音もしない。シーフの察知にも引っかからない。いきなり現れ、襲われる被害が毎日多数起こる。
冒険者ならば避けて通れない天敵の巣窟が六層だ。
だが、レオン達は冒険者ではないため、戦う必要がなかった。
「シャドウウルフが現れたら攻撃を躱して逃げる。魔物の討伐より人命救助が最優先」
「了解。攻撃を躱して逃げるだけなら、僕でも出来る」
レオンは六層の魔物に攻撃が通らない。
だが『俊敏』の値が高いため攻撃を回避するのは可能だ。
シーフ特有の危険を察知する能力と速さがあれば、不意を突かれても簡単に死なない。
彼は空の天気を確認するときと同じくらい自然の流れで天井を見る。
光るコケ類によって明りが確保されているダンジョン内の天井。
そこに張り付いていた黒い染みが、パン生地の発酵のように膨らみ、重力にしたがって垂れてくる。
それが、一瞬で黒い毛皮を持つ狼のような姿に変わった。大口を開け、鋭い牙を曝しながら落下する。
その瞬間、レオンは反射的に前に飛び込み、一回転しながらシャドウウルフの攻撃を回避。




