仕事のお金
ヴィミは、来た道をすぐに引き返し始める。
レオンはすべての罠を解除したわけではないため、彼女の手を握り、落ちつかせた。
「ちょ、い、いきなりなによ……」
ヴィミはふいに触られ、身を一度震わせた。女の子らしいところが垣間見えた。
「これで仕事は終わりじゃない。無事に帰るまでが仕事でしょ」
「わ、わかってるわよっ」
レオンはヴィミが罠を踏まないよう、彼女の手を引っ張りながら中層から上層に戻る。
戻る時はボス部屋で再度戦う必要はなく、素通りできる。
一二層から一層まで全力疾走で駆け抜け、午前中に仕事が終わった。
それにも拘わらず、報酬は……、
「一人につきルークス大銀貨一〇枚。た、たっか」
「救助カードを回収した場所が中層だからね。もっと深い所なら報酬は何倍にもなるわ」
ヴィミはウルフィリアギルドに救助カードを提出し、受付の女性から報酬としてルークス大銀貨一〇枚分と同じ価値を持つルークス銀板を四枚受け取っていた。
王都で働く一般人の月収がルークス銀板二枚ほど。
新人冒険者が一日でルークス銀板を一枚稼ぐのは難しい。魔物の討伐に慣れ、中級冒険者になってやっと稼ぎが安定する。
「私一人でも仕事はできるけど、確かにレオンがいた方が楽だった気がする」
ヴィミは不貞腐れながらルークス銀板を二枚、レオンに手渡した。
レオンは受け取ろうとするが彼女の指に力が入っており、中々取れない。指から力が抜けると、ようやく受けとれた。
「上手くいったみたいだな」
キアズは優しい笑みを浮かべる。
ヴィミがお金を見つめる笑顔と大違い。
「回収した救助カードはどうなるんですか?」
「医療機関に送られて人を解放し、治療。使われた救助カードは、廃棄される」
「使い回しは出来ないんですか?」
「使い回しができたら、金儲けができないからな。一度使い切りの方が何かと融通が利く」
キアズは経営者のような冷徹な笑みを作り、眼鏡を掛け直した。光の具合でガラスが白く濁る。
救助カードを作る者、救助隊、冒険者、全員が納得する形でお金の巡りが形成されていた。
絵本の中で紡がれる英雄譚の舞台、ダンジョンは大人の欲求に染まっている。
レオンは受け取ったルークス銀板二枚を見つめ、眉を顰める。だが、ふと表情が和らいだ。
――なんか、冒険していると言うより仕事って感じだ。まあ、お金が稼げたし、人助けも出来た。戦うのが得意ではなくても、人の役に立てるんだ。
「ヴィミ、レオンの仕事ぶりはどうだった?」
「まあまあ、及第点ってところ。少なくとも、私について来られているだけマシ」
「そうか。レオンが気に入ったか」
「そ、そこまで言ってないでしょっ」
キアズとヴィミは仕事の関係ではなく、父と娘のように気兼ねなく話し合っていた。
「にしても、ヴィミほどの強さがあったら、救助隊で働くより冒険者として働いたほうがいいと思うんだけれど?」
レオンが口を挟むと、和やかだった雰囲気が一変し、ヴィミの表情に靄が掛かる。
「じゃ、明日の朝もここで集合ってことで」
ヴィミはレオンの言葉を無視し、ウルフィリアギルドの入口に向ってとぼとぼと歩く。その姿は、獲物を取り逃がした肉食獣のようにしみったれていた。
――なにか、傷に触るようなことを言ってしまったのかな。
レオンは今日出会って少し仕事しただけの女の子に声をかけられず、寂しい背中を追えなかった。
かわりに背後にいるキアズに話しかけた。
ヴィミがいなくなったのを確認したキアズは、大きなため息をこぼし、口を開く。
「ヴィミはもともと冒険者だった。だが、訳があって冒険者の仕事ができなくなった。生きていくためには仕事しなければいけないからな、シグマの奴がよこしてきた。まあ、簡単に言えば今回のレオンと同じだ。一年くらい救助隊ギルドで働いている」
「なるほど、深く聞かない方がいいですね」
レオンは空気を読み、ヴィミ以外の者から真相を聞くのはやめた。
受付の上に〈ステイタス〉を調べる魔道具が設置されているのを見つける。仕事終わりに成長を確認する。
〈ステイタス〉
《アビリティ》
Lv.1
力:I28→I31 耐久:I30→I33 器用:D508→D538 俊敏:A810→A840 魔力:I10→I13
「魔物を倒していないのに《アビリティ》が上がっている。あぁ、そうか、ボス部屋だからか」
各種の《アビリティ》によって上昇する条件は変わってくるが、一貫しているのは魔物を倒した時に大きく上昇する。
本来ならば、倒した本人しか《アビリティ》の上昇は見込めない。
ただ、ボス部屋に限り、その場にいた者全員の《アビリティ》が上がる。
逃げ回っていたレオンもフレアリザードが討伐された影響で《アビリティ》が割り振られていた。
攻撃していない分、配分はしょっぱい。
それでも、能力が上がっている事実は、仕事のモチベーションになる。




