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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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甘える

「仲間を生きたまま地上に返すのが僕の仕事だ。【血狼の牙】」


 ウルフナイフの穂先はアンダルタの眉間に突き刺さっていたアントナイフの柄尻に衝突。落下の勢いと【血狼の牙】の効果が乗ったアントナイフがアンダルタの頭部を貫通。後頭部から脳漿をまき散らしながら飛び出した。


 巨大なアンダルタの肉体はぼやけていき、光の粒になって消える。

 直径四メートル近い巨大な魔石とアンダルタの爪がドロップアイテムとして地面に落ちる。


 レオンは靴裏から音もなく着地し、頭上を見る。ヴィミが落下しており、地上であたふたと動き回る。ウルフナイフを鞘に戻し、腕を広げながら抱える体勢を整えた。


「ど、どんとこいっ」

「バカ……、この速度で落ちたらレオンの方が死んじゃうでしょうが。【瞬歩】」


 ヴィミは空中から地上に一瞬で移動した。


 彼女を抱える準備を整えていたレオンの間抜けな姿だけが残る。

 ただ、地上に降り立ったヴィミは狭い場所に入るのが好きな猫のようにレオンの腕に乗っかる。


「えっと、ヴィミ?」

「れ、お、ん~」


 ヴィミは【獣化】の副作用が発動する。レオンの首に腕を回し、喉をゴロゴロと鳴らしながら頬同士を擦りつける。


「おぉおおいっ、泥棒猫っ」


 ふっとばされていたリンが百メートル先から走り出し、大声を出す。

 ヴィミはそんなことお構いなしにレオンに抱き着き続ける。


「ずぅーっとこうしたかったの~。レオンのにおいを嗅ぐと、すっごく落ち着くの~」

「ちょ、ちょっと、ヴィミ、さっきは我慢できていなかったっけ?」

「我慢すると辛いの~、こうしていた方が幸せなんだもんっ~」


 ヴィミのトロトロになった声が、レオンの耳元で響く。

 首筋や頬の汗をちろりと舐めとられるたび、レオンは顔が赤くなっていく。


 ――が、我慢、我慢っ。


 空中で行き場を失い、霧のように広がっていたアンダルタの魔力が一カ所に集約され、スキルカードとなって舞い落ちてくる。

 レオンが手に取ると光って消えた。


 ――な、なんか、また《スキル》を授かったんだろうか。ありがたい。って、今はそれより。


 彼はヴィミが唇を尖らせながら迫ってくるのを防ぐので手一杯だった。


「んぅ~、んぅ~、レオン、ちゅぅ~」


「泥棒猫、抜け駆けは許さないわよっ」


 全身ボロボロのリンがヴィミの脇に腕を入れ、レオンから引きはがそうとする。だが、引き剥がせない。


 レオンは疲労が限界に達し、ヴィミに押し倒される形で地面に寝転がる。彼女の後頭部を優しく撫で続けた。

 ノーリスとカリー、ダルシーの三名がレオンたちに駆け寄る。

 リンとダルシーが体の熱さを取るために服を脱ごうとするヴィミを止める。


 ヴィミは一五分ほどすると素面に戻る。顔が真っ赤に染まり、耳と尻尾がへたりこんだ。その後、周りが引くほど甘えていたレオンから大きく距離を取った。


 ――愛情表現の緩急が激しい猫かな?


 レオンは深く深呼吸し、乱れた服装を整える。

 

「レオン、こんなところで訊くのもなんだけど、あなたは救助隊ギルドに残るの? それとも冒険者ギルドに戻るの?」

「僕はキアズさんの命令に背いたからブラックリストに乗っちゃうと思う。もう、どちらにもなれないかな。でも、後悔していないよ。ヴィミを助けられたから」

「一回、違反しただけでブラックリストに乗るわけないでしょ。もしそうだったら、私はとっくにブラックリストに乗っているわ」


 ヴィミは腰に手を当てながら堂々と言い張る。


「で、どっちにするの?」

「僕は……」


 ☆☆☆☆

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