とどめを刺す
周りを見渡すとノーリスたちが保護し、ダルシーの手によって回復された冒険者たちが集まっていた。それらが身を震わせながらアンダルタの作り出した更地に近づいてくる。
隠れてやり過ごす選択はとらず、何かの役にたとうとしている。だが、化け物を前に足踏みし、何度も後ろを振り返っていた。
――この場にいる冒険者たちのほとんどがLv.2だ。これだけの冒険者が力を合わせれば、アンダルタの回復速度を上回れるかもしれない。
レオンはウルフナイフを高く掲げ、口を大きく開く。
「この場に化け物を一人で倒せる英雄ルークスのようなものはいない。でも、英雄が一人だけなんて誰が決めた。今は誰もが英雄になれる時代だ。われこそが英雄だという冒険者は、どうか力を貸してくれっ」
冒険者たちは、高い位置にいるレオンに視線を向ける。すると目を輝かせ背筋が自然に伸びた。
ルークス王国の男と女や冒険者に成るような者なら英雄ルークスの話を知らない者はいない。それゆえに『英雄』という言葉に誰もが強く惹かれる。
「何のために冒険者している。お金のためか。レベルのためか。いや違う、今この時のためだっ」
レオンは胸を張り、眉を寄せて辺りを見渡す。近づいてくる冒険者たちを大声で鼓舞した。
冒険者たちは初心者や若かりしころのように、瞳が恐怖よりも無垢な好奇心に満ちていた。
一人、また一人と雄叫びを上げながら中央にいるアンダルタのもとに駆け寄る。
「よ、よし、これで……」
「今の、結構英雄っぽかったわよ」
ヴィミはアンダルタの頭上から背を反らせて飛び降りる。
同時、アンダルタの毛並みが元に戻った。加えてまた、頭上を見上げる。
「もう、させるわけないでしょうが。【獣拳】」
ヴィミは【瞬歩】で音もなく着地した。地面を抉るほどの脚力で駆け出し、アンダルタの鳩尾目掛け、飛び込む。硬く握りしめられた拳が巨大な肉壁にめり込むほど突きつけた。
アンダルタは巨大な体のバランスを崩す。背後から地面に倒れ込んだ影響で衝撃波を放たない。
多くの冒険者が到着と同時に《魔法》や《スキル》、自慢の武器を使ってアンダルタに攻撃を仕掛ける。
「俺たちも負けていられないなっ」
「レオンに送れを取るわけにもいかない」
「攻撃を受けたら危険だってことは、ちゃんと理解しておいてくださいよ」
ノーリスとカリーもレオンの声に感化され飛び出そうとしたが、冷静なダルシーに服を引っ張られ、判断力を取り戻した。
「このまま、押し通すっ」
ヴィミがアンダルタを倒した影響で、レオンは空中に放られていた。だが地上にクッション性が高い巨大な化け物が寝転がっているため、そのまま急降下。
「回復速度を上回るほど攻撃を与えて、一気に削り切るっ」
レオンは落下しながらウルフナイフの穂先を、ヴィミが殴り大きく凹んでいるアンダルタの鳩尾に突き刺す。
皮膚が分厚く、ウルフナイフの刃渡りでは内部まで届かない。
「【血狼の牙】」
引き抜く前に真横に掻っ捌くと、真っ黒な血しぶきが舞う。腹の上を駆け巡り、頭部に向かいながら切りつけ続ける。
レオンの移動速度は血しぶきが地面に落ちていくよりも速く、アンダルタが身を起こす余地すら与えない。
――あと少しだっ。あと少しっ。
多くの英雄から一斉攻撃を受けているアンダルタの体毛が膨らみだす。
「往生際が悪いっ。私はここから出てレオンと飲みに行きたいの。さっさとやられなさいっ。【サンダーアロー】」
リンは私利私欲に塗れた魔力で《魔法》の雷の矢を八本生み出し、一斉に射出する。
アンダルタの肉体に突き刺さると同時、電撃が走った。傷の再生がほんの少し阻害される。
「動きすぎて、お腹がペコペコなの。早く、レオンと一緒に焼き肉に行きたいから、さっさとやられなさい。【獣拳】」
ヴィミは地面を蹴り、アンダルタの腹に飛び乗ると連続して拳を打ち込む。心臓を震わせる鈍い音が鳴り、一七層に響き渡る。
アンダルタは内臓に響く攻撃を受け、口から黒い血を吐き出した。
冒険者たちは叫び、泣き、吠え、笑い、発狂しながら一心不乱に巨大な化け物に攻撃を繰り返し続けた。
――きっと調査隊も仲間同士で協力していたに違いない。んっ?
アンダルタは勢いよく息を吸い、胸を一気に膨らませ、レオンを高く放り上げる。
その瞬間、レオンは巨大な黒い瞳と目が合った。
「グロアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」
アンダルタは回復を止め、攻撃態勢に入る。全身から生み出す衝撃波を使い、体に引っ付くノミのような人間たちを軒並み吹っ飛ばした。
多くの冒険者が百メートル近く吹き飛ばされた。地面に直撃した者は致命傷を受け、救助カードに入り込む。
「くっ、まだ、こんな余力があるのか……」
レオンは強烈な風圧を受け、天井付近まで吹っ飛ばされた。
――さっき、アンダルタは回復を中断した。それなら今、体力が一番低い。あと一撃、強烈な攻撃を与えたら倒せるはずだ。でも、ここからじゃ、真面に攻撃できない。このままアンダルタの顔に目掛けて落ちていくだけじゃ、間に合わない。ダメだ、アンダルタの回復される。
落下速度を増そうにも天井に足が届きそうにない。
「あとちょっとなのに……、どうすれば」
レオンはアンダルタの姿を見下ろし、歯を食いしばる。手を伸ばすも、化け物に届かない。
「誰か、誰かいないのかっ」
冒険者は軒並み吹き飛ばされており、アンダルタにとどめを刺せる者は誰もいなかった。
「私はもう《レアスキル》の効果が切れる。だからレオンが止めを刺しなさい。今ならできるでしょ」
ヴィミが頭上にいた。膝を曲げ、力を溜めている。
「ヴィミ……、ああ、わかった」
――ヴィミに背中を押されるのは二回目だな。
レオンは微かに口角を上げる。残っていた大型のアントナイフをアンダルタの眉間に投げつけた。
アントナイフは銀色の筋を空中に引きながら眉間に完璧に突き刺さる。それと同時、ヴィミの靴裏とレオンの靴裏が完璧に合わさる。
互いに拍子よく蹴り合った。
レオンはブラッドウルフを倒した時と同じか、それ以上の速度でアンダルタの顔面に向かう。
アンダルタは口に魔力を溜め始めるが……、それよりもレオンのほうが何倍も速い。




