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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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防御形態

「これはきっと怖がっているんじゃない。英雄みたいで興奮しているんだ」


 レオンはウルフナイフの柄を逆手で強く握りしめる。手の平に吸いつくように良く馴染む。忠犬が甘えてきているような気さえした。


「まさか僕を殺そうとしてきた魔物と力を合わせて戦うときが来るなんて全く思っていなかったよ」


 ウルフナイフは鳥の羽のように軽量で、鉄を軽々切り裂く高い攻撃力を持ち、壊れても再生する持久力を兼ね備えている。アントナイフが嫉妬してしまいかねないほどの性能を持つ。

 レオンはレベル一ながら尋常ではない器用の値と類まれなる戦闘センスで、それを使いこなした。


「グロアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」


 アンダルタが地面にぽつりと立っているレオンに、大気を震わせる怒号を放つ。

 レオンの前方から秒速四〇メートルほどの強風が吹きつける。土煙や砂、落ち葉などが彼の全身に叩きつけられた。風が生暖かい。歯槽膿漏のような、不快な臭いが混じった風を両腕で顔を防ぎながら受けきる。


 風が止むと同時、アンダルタが四足歩行で駆けだした。


「ほらほら、こっちだ化け物っ」


 レオンは熊に追いかけ回される鹿のように地面を全力で駆ける。早く逃げ過ぎても囮の役目が果たせない。囮の効果を最大限発揮するために存在を主張し、気を引き付ける必要がある。

 咆哮で抉られた地面を走り、ちょこまかと動くことによりアンダルタの気を完全に引いた。


 レオンが八秒ほど走ったころ、ヴィミが木々を足場に空中に飛び出した。

《レアスキル》【獣化】を再度使用した彼女は握り拳を作り、気を溜める。拳が眩く光輝き、アンダルタの左頬に向けられた。


「おらぁあっ【獣拳】」


 ヴィミの拳がアンダルタの左頬に直撃する。大砲の火薬が爆ぜたような轟音が鳴り、アンダルタの巨体が大きく揺らめく。


 レオンはヴィミの攻撃力を凝視し、苦笑いしながら一歩あとずさりした。胸に手を当て、肩をすくめる。


 アンダルタは『耐久』が高く、ヴィミの《魔法》と《レアスキル》の合わせ技を食らっても女性にビンタされた程度の雰囲気で、致命傷になっていない。後ろ脚で体勢を整え、攻撃してきたヴィミの方に意識が移った。


 それを期に、ヴィミは逃げに徹する。

 アンダルタが進行方向を変えた。

 その瞬間、レオンはその巨大な後ろ姿を追いかけた。


 アンダルタからすれば全てが雑魚。背後から忍び寄る、小さな鼠に気づかない。


「ヴィミに追いつけるのは僕だけだよ。【血狼の牙】」


 レオンは速度が乗った状態で木の枝を足場に高く跳躍。四足歩行で移動しているアンダルタの背中にウルフナイフの穂先を容赦なく突き刺した。


 アンダルタの口から激しい叫び声が放たれ、行動を止めると同時に背中を反らす。


「【血狼の牙】【血狼の牙】【血狼の牙】【血狼の牙】【血狼の牙】【血狼の牙】【血狼の牙】」


 レオンは全体重を掛けながらウルフナイフを振るう。アンダルタの背中が垂直になっても退避しない。重力にしたがい地面に向って落ちていきながら、攻撃を繰り返す。


 一〇回ほど傷を与えたころ、アンダルタの毛が逆立つ。


 ――アンダルタの雰囲気が変わった? でも、動きが止まっている。攻撃し放題だ。


 レオンは背中の毛を掴みながら、落下を防ぐ。その後、何度攻撃しても傷は瞬時に再生された。


「アンダルタ《スキル》か? でも、関係ないっ。相手が守るなら、こっちは攻め続けるだけだ。【血狼の牙】」


 レオンが《スキル》を発動しながらウルフナイフを突き刺すと、容易に攻撃が通る。【血狼の牙】は相手の耐久や《魔法》《スキル》《レアスキル》に関係なく固定ダメージを与える。

 ただ、傷を与えたそばから回復されているため、致命傷にならない。


 連続で攻撃し続けていただが、三四回以上攻撃してもアンダルタは倒せなかった。


 ――このアンダルタは防御形態ってところか。今、攻撃しても体力の無駄だな。


 レオンはアンダルタの背中を蹴り、空中に弧線を描いて舞い、木の枝に移動。少し距離を取り、アンダルタの様子をうかがう。その間、与えた傷は跡形もなく消えていた。


 レオンが離れてから三分もしないうちにアンダルタの膨らんでいた毛並が元に戻る。


「グロアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ」


 アンダルタが天井に向って叫ぶ。体から魔力が放出され、衝撃波が波紋状に発生。

 根が地面にしっかりと張っている木を軒並みなぎ倒し、森林に半径百メートル近いミステリーサークルを作り出す。


 レオンは風圧に木の葉同様に吹き飛ばされ、茂みに突っ込む。


「脅威過ぎる鬼のような回復速度。無慈悲な熊に近い身体能力。ほんと、こんな化け物が一七層に出てきて、調査隊はよく勝てたな……」


 レオンは口に入った葉っぱを吐き捨てる。手の甲についた細々とした小さな傷を少し舐めた。

 アンダルタの方にふと視線を向けると、口が光っていた。


 ――くっ、咆哮が来る。


 レオンが身構えると同時、黄色い矢が放たれた。静電気を発生させながら上空に光の線を伸ばす。アンダルタの口内に黄色い矢が瞬く間に飛び込んだ。電撃によって生じた火花が口内に溜められていた魔力に引火し、口から黒い煙が吹き出すほど大きく爆発。

 その影響で咆哮が止まる。


「さすが、リンだ。僕も頑張らないと」


 レオンは左腕に乗っていた葉っぱを右手の指先で摘まみ、地面に放る。

 ふわりと舞った葉が地面に着く前に、彼の姿は消えた。

 アンダルタの背後に舞い戻ると【血狼の牙】を発動させながら逆手に持ったウルフナイフで連続攻撃。だが、先ほどと同様にアンダルタの毛並みが膨らみ回復形態をとる。


「これじゃあ、埒が明かない。どうすれば」

「数でごり押しすればいいんじゃない?」


 レオンがアンダルタの頭上で腕を組み、首をかしげていると、ヴィミが【瞬歩】で頭上に上ってくる。

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