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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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にらみ合い

「あいつの攻撃は下層、深層の魔物と同じ。もしくはそれ以上の可能性もある。リンなら知っているでしょ……」

「だから危険だって言っているの。ただでさえ酷い怪我だったのに本当に死んじゃうわよ」

「僕は僕の力で皆を守りたいんだ。大丈夫、逃げ足だけは誰よりも速いから、危険だと思えばすぐに離脱するよ」

「もぉお、レオンのわからずやっ」


 リンはだだをこねる子供のように地面を踏み鳴らし、自前の杖を握りしめて振り回す。

 ノーリスが止めに入り、沈静化された。


「あいつを倒さなきゃ、一七層から出られない。それに、一人じゃ攻撃と囮をこなせない」


 ヴィミは立ち上がり、軽く跳ねる。屈伸運動や震脚などを繰り返し、体の動きを確かめる。


「私も囮をやるわ」

「ちょ、囮は僕だけで十分……」


 ヴィミはレオンの両頬に手を当てる。そのまま、頬を摘まんだ。


「Lv.1の癖に、カッコつけすぎ。私はレオンの仲間だから、あなたを助けるのは当たり前でしょ。何か、文句でもあるの?」


 彼女は鼻先が当たりそうになるほど顔を近づけ、睨みつける。


「あ、ありません」

「よろしい。あの化け物にごみクズ野郎の風の刃が通っていたから、私の攻撃も通るはず。なら、勝てる可能性はゼロじゃない」

「僕の《スキル》を使えば攻撃を三四回当てればおそらく倒せる。あの大きさなら、狙わなくてもいいけど近づくだけで危険だよね」


 ヴィミとレオンはいつも通り、素早く作戦を立てていた。

 そんな中、近くにいたノーリスがレオンの肩に手を置く。


「おい、お前らがやろうとしているのは、囮役の域を超えているんじゃないか? 俺にも何か手伝わせろ」

「そうよ、そうよっ。二人だけで話を進めないでよ。私もいるんだからっ」


 リンは杖を上下に動かしながら叫んでいた。


「あいつの攻撃を受け止められるだけの力は俺にないが、怪我人を運ぶくらいなら出来る」

「私も怪我人の治療くらいならできます。ただ、指をくわえて見ているだけなんて出来ません」


 カリーとダルシーも、逃げ出さずにレオンに近寄る。

 この場にいる全員の表情が引き締まった。


「皆……。ありがとう」


 レオンは皆を見回し、ふと瞳に涙が溜まる。


「泣いている暇はないわよ。まあ、笑っている余裕もないけどね」


 ヴィミは筋肉と脂肪のバランスが天秤並みに釣り合っているしなやかな体を未だに動かしていた。腕を上げて横腹を伸ばし、腰を反らせ、その場で軽く駆け足する。

 肌の露出が多いため、綺麗な括れやほのかに割れた腹筋、引き締まったお尻の丸み、美乳と称したい胸の膨らみなどが助長された。


 ――いつ見ても、綺麗な体だな。


 レオンはヴィミの姿を観察していた。

 ヴィミと視線が合うと、頭を横に振るう。頬を強く叩き、アンダルタの方を凝視した。


「俺とカリー、ダルシーは怪我人の救助。リンはレオンたちの援護に回ってくれ。全員、自分の命を最優先に。気を引き締めて仕事にかかれ」


 ノーリスはパーティーメンバーに的確に指示を出し、すぐに仕事に取り掛かった。

 連係がとれている冒険者パーティーほど長生きできる。『聖者の騎士』の連係は新人や中堅を凌いで群を抜いていた。パックスが輪をかき乱しても生き残っていただけの理由がそこにある。


「リンはアンダルタが咆哮を放とうとしたら口めがけて魔法を打ち込んで。あの遠距離攻撃は生き残っているけど動けない冒険者たちにとって危険すぎる」


 レオンもヴィミ同様に体を動かし全身に血を巡らせ、筋肉を解す。


「わかった。どの方向に顔が向いていても絶対に止めてみせるわ」

「ヴィミは僕がアンダルタに追われている間、攻撃。逆にヴィミがアンダルタに追われている間、僕が攻撃する。だいぶ疲労が溜まっていると思うから、無理しないで」

「それはレオンも同じでしょうが。他人の心配ばかりしすぎなのよ」

「ヴィミは他人じゃないよ。僕の仲間だ。仲間を心配するのは当たり前のことだよ」


 レオンはヴィミの肩に手を置き、花をめでるような優しい笑顔を向けた。


「あ、あっそ……。だからって、もうちょっとは自分の心配もしなさいよね」


 ヴィミはレオンの顔を見ず、視線を下げながら小さく呟く。頬が赤らみ、大きく深呼吸。顔にかかる髪をかき上げ、指で梳く。


「むむむぅ、レオン、私も一緒に冒険していた仲間なんだけど。なんなら、そこの泥棒猫より長い間一緒にいたんだけどっ」


 リンはレオンの左手を握りながら振り回した。すぐに抱き着き、上目遣いで叫ぶ。距離がゼロになっている。


 ヴィミは眉間にしわを寄せながら目を細め、首を軽く傾げる。レオンとの間は、人ひとり分開いていた。視線を反らしながら一歩横に詰める。


「れ、レオンは私の仲間だ。元仲間のお前はすっこんでいろ」


 彼女はレオンの右腕を掴み、幼児が玩具を取り合うように引っ張る。


「な、なんですって。レオンのレの字も知らないくせに。泥棒猫の方こそすっこんでいなさいよっ」


 リンはレオンの左腕を掴み、強く引っ張る。


「ちょ、ちょっと二人共、今はそんな話している場合じゃないよ。アンダルタがこっちに向って来ているっ」


 ヴィミとリンは、レオンが見ている方に視線を向ける。

 アンダルタが木々をなぎ倒し、腕を振るうだけで土の津波を起こしながら迫りくる。


「二人共、最初は僕が引き付ける。その間に距離を取るんだ」


 ヴィミとリンは一瞬睨みあい、レオンの腕を離し、逆方向に走る。


 レオンは迫りくる化け物を前に、両脚が初めて立った赤子のように震えていた。

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