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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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後悔

「『聖者の騎士』から聞いたけれどレオンって上層の魔物も倒せないんだよねぇ。ほんと、Lv.1の中でも相当雑魚じゃん。ドリミアさんも頭が悪いなぁ。さっさと武器を壊させてしまえばよかったのにぃ」


 パックスはヴィミの背中を蹴り飛ばし、レオンの目の前に倒れ込ませる。


「ヴィミっ」


 レオンはウルフナイフの柄だけ握りしめたまま、ヴィミの体を抱きあげる。すぐさまパックスと距離を取る。

 ヴィミの太ももから未だに血が溢れ出ており、早急に止血する必要があった。

 ウェストポーチから縄を取り出し、鼠径部辺りを硬く縛る。『器用』の値が高いため、止血に一秒も掛からない。


 ヴィミの止血後、視線を前に戻すがパックスの姿はすでになかった。だが、油断せず気を張り続ける。


 ――後ろかっ。


 振り返るとアントナイフを振りかざしてくるパックスがいた。ヴィミを抱きながら前転し、攻撃をギリギリで回避する。


「ちょこまかちょこまかと、ほんと速いね。これだから鼠の後始末は大変なんだよな」


 パックスは地面に落ちていた細いアントナイフを八本拾っていた。『器用』の値が高いシーフの投擲技術は無視できない。


 ――僕が前に出た瞬間に、ヴィミを狙われるかもしれない。


 レオンはその場で踏みとどまらざるを得なかった。


「怪我人を抱きながらの移動だと、速度が大分落ちるみたいだねぇ」


 非力なレオンはヴィミの体を抱きながら高速で走れなかった。脚を怪我している以上、彼女も真面に走れない。それどころか、立っていられない。


「レオン……、私は大丈夫だから、気にしないで。私がいたら、戦えないでしょ……」


 ヴィミは掠れた小声で話す。血が流れ過ぎた影響で意識が朦朧としていた。死地にいるにも拘らず、日向ぼっこしているような薄ら笑いを浮かべる。手をレオンの胸に当て、押し出そうとする。だが、赤子のように非力で、彼はびくともしない。


「僕はヴィミの仲間だ。なにがなんでも守り抜く。女の子一人守れないで、英雄になれるわけがない」


 レオンはヴィミを地面に横たわらせた。ゆっくりと立ち上がり、パックスの前に出る。


「英雄? ふっ、子供らしい夢だねぇ。でも、今の時代、そんな人間を誰も求めていないよぉ。八〇〇年前なら需要があったかもしれないけど、今は強い者こそが正義だぁ。夢は眠っている時に見ると良い、大人なら現実を見なきゃ。Lv.1じゃ英雄になんか一生かけても成れないよっ」


 パックスは八本の細いアントナイフをレオンではなく身動きが取れないヴィミに目掛け投げ込んだ。


 ――ナイフの速度が早いっ。《スキル》か《魔法》の類でナイフの速度が増している。これじゃあ、僕の足でも全部防げない。


 ウルフナイフの柄だけで弾けるアントナイフの本数は限られていた。他の武器を拾いに行く時間はなく、ヴィミを抱き置きして躱す余裕もない。


 ――無傷のままアントナイフを防ごうとすれば、ヴィミの体にナイフが確実に刺さってしまう。刺さり処が悪ければ、即死しかねない。今、ヴィミは救助カードを持っていないんだ。これ以上、怪我させるわけにはいかない。


 足が震える。体が強張る。目を見開き、迫りくる八方向に広がったアントナイフを見つめる。


 ――失敗してしまったらヴィミが死ぬ。結局何も出来ずに守り切れなかったらヴィミが死ぬ。


 アントナイフは容赦なく迫りくる。使い手により雰囲気が変わり、鈍色の刃がくすんでいた。

 

 ――ここで動かなかったら、一生後悔する。それこそ、大切な仲間を守り切れなかったら死んでも後悔する。そんなこと、わかっている。


『取返しが付かないと知って人間はやっと後悔する』


 エルツの言葉が思い起こされる。


 ――まだ、取返しが付かないわけじゃない。後悔しないためには、行動するしかない。ヴィミを守り、後悔しないようにするために、パックスと戦うしかない。


 レオンは腹に力を入れ、ウルフナイフの柄を深く握りしめる。足の震えが止まった。肩に入った力も抜ける。


『冒険者も救助隊も本質は同じ。必要なのは、前に進む勇気を持っているかどうかでしょ』


 ――冒険者に必要なのはレベルだと、ずっと思っていた。でも、仲間を守るのにレベルが高いか低いか、今は関係ない。本当に必要なのは、心の強さだったんだ。


 レオンは黒い瞳に鋭い眼光を宿し、なりふり構わず前に飛び出した。八本中、四本をウルフナイフの柄で弾く。ヴィミへの攻撃を事前に防ぐ。

 残りの四本は自らの体で受け止める。致命傷になりえる箇所は避けた。だが、四本のアントナイフが体に突き刺さる。感じた覚えもない激痛が全身をくまなく走り、立っているのがやっとの状態に陥った。


「自分からナイフに当たりにいくなんてバカだなぁ」


 パックスは大型のアントナイフを手の平で弄ぐ。高速回転させながら空中に放った。アントナイフは重力に従い落下。刃ではなく柄を完璧に掴む。それを連続で繰り返し、大道芸人のようにアントナイフを自由自在に操っていた。


「れ、レオン……、どうして」

「ヴィミを守るって言ったでしょ。僕は嘘をつくのが嫌いなんだ……。だから絶対に守り通す」


 レオンは歯を食いしばり、右脚、左肩、腹、右腕に刺さっているアントナイフを引き抜く。呼吸が荒くなり、脂汗が背中や額ににじむ。


「まあ、いいやぁ。これで、大分戦いやすくなったかな。じゃあ、レオンをさくっと殺して、そっちの子も口封じしないといけないよなぁ」


 パックスは悪気が一切なさそうな薄ら笑みを浮かべる。アントナイフの柄を軽く握った。真正面からレオン目掛け、走る。

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