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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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適材適所

「そう言ってもらえるだけで、僕は幸せ者だ。僕以外にも優秀なシーフは沢山いる。なんなら、戦えない僕と違って普通のシーフなら戦闘にも加われる。今より、ずっとダンジョン攻略が楽になるはずだよ。二年間、本当に楽しかった。ありがとう」


 レオンは丸テーブルにおでこがぶつかりそうなほど頭を深く下げた。頭を上げたのち、そのまま食堂を後にする。


「ちょ、レオン、一人で勝手に決めちゃって。ノーリス、なんでもっと強く引き留めないのよっ」

「レオンが言っていることは事実だ。中層はLv.1じゃ太刀打ちできない魔物が大量に湧いてくる。俺は『聖者の騎士』のリーダーとして皆の安全を守る必要がある」

「レオンは自分で抜けることを選んだ。俺たちと自分を天秤にかけて、俺たちを選んでくれたんだ。だから、それに答えるためにも、ここで立ち止まっているわけにはいかない。そうだろうダルシー」


 カリー・ハンズは青い前髪をかき上げた。仲間の選択を否定せず、視線を緑髪の少女に向ける。


「そうですね。実際、今の私たちとレオンさんの実力は大きな差がついてしまっていますから、彼の言い分も理解できます。出来るなら、皆で一緒に中層に行きたかったですが、仕方ありません。リン、心配しなくても、きっとレオンさんなら追い付いてきますよ。だって、彼は誰よりも速いですから」


 ダルシー・ポートは背筋を正し、股の上に置いていた手を握り合わせた。

 大きな胸を無意識に強調しながらレオンの行き先に訪れる幸を祈る。


「あ、いたいた。『聖者の騎士』の皆。レオンくんは、いないみたいだね……、そうか、ようやく決心がついたんだ。よかった、よかった」


 灰色の髪を靡かせる男が手を上げながら、四名に声をかける。

 質の良い鎧を身にまとったドリミア・アーノルドは笑みを浮かべながらレオンが座っていた椅子に腰かける。


「じゃあ、中層に行く準備を進めようか。ギルドマスターから有望な冒険者の教育を頼まれているからね、私に任せておけば全てうまく行くから安心してくれていいよ」


 立ち上がっていたリンは奥歯を噛み締め、乱れた金髪を手で払い、椅子に座り直す。

 ドリミアは中層のさらに奥、深層に潜り、他の冒険者たちが目を見張るほど大活躍している。そんな彼の話に『聖者の騎士』は耳を傾けた。


 ☆☆☆☆


 ここは、巨大ダンジョン『インフィヌート』を所有し、無現像に湧き出てくる魔物から得られる資源で大金を手に入れているルークス王国。

 レオンは国内に数ある冒険者ギルドの中でも特段名が知れたバルディアギルドに所属し、二年間、来る日も来る日もダンジョンに潜って来た。


「これでよかったんだ。二年間で思い知らされた。僕は冒険者に向いていなかったんだ。これからは別の方法で生計を立てて行かないと。それに、レベル上げも頑張らなきゃ」


 どんな者でもコツコツと魔物を倒していればレベルは上がる。だが、レオンのレベルは一向に上がらなかった。


 レオンはバルディアギルドの受付に顔を出し、仕事を探す。


「なんだ、レオン、そんな今にも泣きそうな女みたいな顔して」


 バルディアギルドのギルドマスターと鉢わせた。

 Lv.7の化け物で、百人の冒険者が一斉に攻撃してもおそらく倒せない男、シグマ・バルディア。

 右目が眼帯で塞がれている分、左目の圧力が倍増している。


 前線を退いても、肉体と強者感は衰えを知らず、今でも十分活躍できるだけの技量を持っている。

 新人冒険者の育成のため、最前線から退いた英雄に最も近い男。

 多くの冒険者が憧れて、その度、届くわけがない現実を突きつけられるのを繰り返す。レオンもその一人。


 ――鼠がどれだけライオンに憧れても、成れるわけがない。


「『聖者の騎士』を抜けたんです。これで、皆は中層に行けますよね……」

「中層はLv.2が推奨されているだけで、Lv.1が入ってはいけないわけじゃないぞ」

「それでも、Lv.1が入るべき場所ではないですよね」

「まあ、そうだな。だが、冒険者にとって一番必要なのはレベルなんかじゃない。ここだ」


 シグマはゴリラのように広い胸板に右拳を叩きつけ、微笑えんだ。


「いや、冒険者にとって一番重要なのはどう考えてもレベルですよ」


 レオンは視線を反らし、話を跳ねのける。


 シグマは清潔に整えられた茶色の髭を撫で、腕を組みながら一度黙り込む。


「ここのところ、多くの冒険者が中層で亡くなっている。Lv.2だけの冒険者パーティーですら全滅する可能性がある。冒険者としての素質が試される危険極まりない場所が中層だ。上層で冒険者を止める者のほうが多い。フレアリザードにすら到達しない者もいる。気に病む必要はないぞ」

「それくらいわかっていますよ。でも、僕も英雄みたいな強い男に……」


 レオンは握りこぶしを作り、肩を震わせる。


「……レオン、今の〈ステイタス〉を見せてくれ」


 シグマは受付に設置されている正方形の魔道具に指先を向ける。


 レオンは星型と丸型を何重にも描かれた難解な魔法陣に、手の平を乗せた。

 すると、魔道具の上空に長方形の表示領域が現れる。


〈ステイタス〉

《アビリティ》

 Lv.1

 力:I28 耐久:I30 器用:D508 俊敏:A810 魔力:I10

《魔法》

【】

《スキル》

【】

《レアスキル》

【鬼追いの神】・『力』、『耐久』、『魔力』の成長率大幅低下。・『器用』、『俊敏』の成長率大幅向上。


「これじゃあ、英雄ルークスみたいになれないですよね……。Lv.2にも程遠い」

「ううむ、『器用』と『俊敏』の数値だけが高いな。全ての《アビリティ》がDを越えなければレベルは上がらない理を考えると、まだLv.2に上がれそうにない。だが、レオン、適材適所だ」


 シグマはレオンの肩に熊のような筋肉質の手を乗せ、笑った。

 なにを考えているのかわからない笑顔を向けられ、レオンは表情が引きつる。

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