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インフィヌート ~ダンジョンで倒れた冒険者を救う者の物語~  作者: コヨコヨ


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宝部屋

「攻撃を躱して、逃げるっ」


 レオンとヴィミはシャドウウルフに陰すら踏ませず退避。

 シャドウウルフの頭脳は犬並、またそれ以上。追えないとわかるとすぐに引き返した。

 魔物は一定の距離が生れると人間を追わず、別の獲物を探す。


「良い感じね。やっぱり、あんた速いわ」

「逃げ足だけはね……」


 両者は何度もシャドウウルフに攻撃されながら全て回避し続け、全力で逃げる。


 八度ほど全力疾走したころ、七層に向かう通路ではない場所で荷物が放置された状況を見つける。

 加えて、体に多数の歯型がある一人の遺体が血だまりの上に横たわっていた。


「肉体の損傷が少ないからシャドウウルフはここで倒されたようだ。でも、素材はない。きっと、他の冒険者が持っていたんだ……」


 レオンは両手を握り合わせ、魂がダンジョンの中で迷わないよう軽く拝む。


「探していた冒険者パーティーの一人で間違いないわ。血が奥に続いているから仲間を逃がすために一人で魔物に立ち向かったのかも」


 ヴィミは救助カードを亡くなっている冒険者にかざし、遺体を回収。

 死んだ人は重い。だが、救助カードの中に入ってしまえば簡単に運べた。


「急ぐわよ。まだ生きているかもしれない」


 ヴィミは氷のように、至極冷静だった。


 ――ヴィミは、この状況に慣れているのかな? 僕も死体を見るのは初めてじゃないけれど、やっぱり気持ちがいい光景じゃないな。


 レオンは散乱している荷物をあさり、亡くなった冒険者の遺品を少しでも持ち帰る。


「おかしいわね。においが消えたわ」


 ヴィミは鼻を何度もひくつかせる。動きがおおざっぱになり、首の裏を何度も触っていた。

 救助を急ぐあまり、周りに気を向けられていなかった。


 レオンはヴィミの手を握る。

 言葉を掛けるより、手の平の温もりの方が気持ちが伝わる時があると知っていた。

 子供のころ、高熱で魘されている時、母が手を握ってくれた安心感は今でも心を穏やかにしてくれる。


「な、なによ。驚かせないで」

「ごめん。でも、落ちついたでしょ」

「ま、まあ。って、こんなところで、手を握り合っている場合じゃないわよ」

「焦っても逆効果だよ。僕の予想が正しければ……」


 レオンは何の変哲もない岩壁に手を添える。

 砂埃を払うと、壁に一本の亀裂が入っていた。


「ダンジョンの中に存在する宝部屋の一種だ」


 地面に意識を向け、一カ所を踏み込むと壁の一部が扉の形状に凹んだ。

 扉が動き、空間が現れる。


「ウルフィリアギルドから救助に来ました。怪我人はいますか?」


 ヴィミはレオンの手を振り払うと宝部屋の中に入り込んだ。

 壁際でもたれ掛かる三名の冒険者を発見。すぐさま駆け寄った。


 皆、疲労困憊。血を流しすぎて重症の者もいる。

 レオンの持っていた救助カードも使用し、三名を救出。


 救助カードを使用した後、冒険者たちが所持していた品々が床に散乱した。

 今回使用した救助カードは高級品ではないため、所有物は保護できない。


「救助隊ギルドもたちが悪いな」

「安い救助カードでも一枚でルークス金貨一枚近くするのよ。命が助かっただけでも冒険者にとっては儲けもでしょ」


 ――救助された者はいったいいくら払わせられるのか聞くのが怖い。


「一人の犠牲で、三人は助かったみたいね。運がいい方だわ……」


 ヴィミは救助カードをウェストポーチにしまい、散乱している品に目を通す。

 質のいい品はなく、六層に挑戦するにしては準備不足が否めない。

 とんとん拍子に階層を降りてきた影響で自分たちの力を過信した新人冒険者の可能性が浮上した。


「五層までは冒険者パーティーで移動すればあまり手こずらないから、油断しちゃうのよね」

「ほんと……、ダンジョンもたちが悪いよね」


 レオンが返事すると、ほんの少し沈黙が生れる。八秒ほど経って、ヴィミが言葉を吐いた。


「……さっきは、落ちつかせてくれてありがとう。焦って、周りが見えていなかったわ」


 ヴィミは腕を組みながら踵を返す。尻尾が挙動不審な動きを取っている。

 彼女は仕事を終え、宝部屋から出て行こうとした。


「宝箱、開けられていないけど、開けて行かないの?」

「それを早く言いなさいよ」


 宝部屋の中に堂々と鎮座する木製の宝箱。

 中身はダンジョンが作り出している場合もあれば、だれかの落とし物と思われる品が入っている場合も多い。


 宝部屋に似た偽宝部屋があり、宝箱の姿に偽装したミミックという魔物もいる。

 そのため、宝箱を見つけたからといって安易に開けてはならない。


 今回は本物の宝部屋のため魔物の可能性はない。

 宝箱の開錠は『器用』の《アビリティ》が大きく上昇する。

 宝部屋は見つけようとしても見つからず、遭遇するのは運しだいだ。


 レオンはピッキング道具を使い、宝箱の鍵穴をほじくりながら内部構造を特定。慣れた手つきで素早く開錠。

 黒い瞳が無垢な少年のように輝き、鼻息が荒くなっていく。


 ――宝箱の蓋を開ける時のワクワク感は、どれだけ冒険者として働いてきても、初心と全く変わらないな。


 蓋を開けると古びた本が入っていた。

 ヴィミはあからさまに溜息をこぼす。


 レオンは、古びた本を開く。達筆な文字が書かれている。


 ――何が書かれているのか全く読めない。でも、数字は読めるな。


『△△四四四△、八△八△……』『△△四四四△、八△九△』という具合に、まとまった文章の前に書かれていた。


「誰かの日記かも。今は英暦八八八年だから。もしかして四〇〇年以上前の品だったりするのかな? 過去の文字なら図書館で古語を調べれば解読できるかもしれない」


 レオンは古びた本をウェストポーチにしまい、持ち帰る。


「せっかく宝部屋を見つけたのに、宝箱から出たのが、ただの古本だなんて、運がないわね」

「まあ、そういう時もあるよ。そもそも、僕たちは冒険者を救出に来ただけだし、仕事は完了しているんだから、喜ぶべきだ」

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