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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
第一章 冬吾の物語

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第八話 レベルアップ

 夜。

 ギルド拠点は静まり返り、深い闇に包まれていた。


 豪邸の中、冬吾は広いベッドに身体を沈めていたが、眠りは浅い。閉じた瞼の裏で、何度も同じ映像が再生される。


 刃が肉を裂く感触。

 熱い血が拳を濡らす感覚。

 エッジの顔。驚愕と殺意と、そして確かな死が混ざったあの目。


「……っ……!」


 夢の中で、エッジの亡霊が立っていた。

 黒く焼け焦げたセブンスと並び、ゆっくりと冬吾へ腕を伸ばしてくる。


『よくも……』

『てめぇが……俺を……』

『戻してやるよ……同じ場所にな……』


「やめろッ……やめろ……!」


 冬吾はうなされ、荒い息を吐いて飛び起きた。


 天井が静かに広がっている。

 深夜の空気は冷たく、現実は静かだ。


「……夢、かよ……」


 汗が額をつたい、シーツを濡らしていた。

 気を落ち着かせようとステータスを開く。


 ――その数字を見て、冬吾の息が止まる。


【レベルアップ Lv.1→Lv.10 】

【最大HP:145】


 戦士らしい伸び代で、HPが大幅に増えていた。

 たしかに強くなっている。

 でも、その成長の裏には確かな「犠牲」があった。


(エッジを倒した経験値……その結果がこれかよ)


 胸に重さがのしかかる。


 ふと横を見ると、少し離れたベッドでクラウドが穏やかに寝息を立てていた。

 彼はまだ高校生だ。

 あの戦闘で凍りつくのは当然。


(……外、歩くか)


 冬吾はそっと部屋を出る。


 廊下の先、女子部屋の前に差し掛かると、そこに小さな影があった。


「……ベリー?」


 壁に背を預けたまま、膝を抱えてうずくまっている。照明の薄明りに、その頬の跡が浮かび上がった。


 涙の跡。


「寝れねぇよな……」


 声をかけると、ベリーは顔を上げ、いつもの強がりを口にした。


「べ、別に……たいしたことないわよ……」


 しかし声は震え、視線は揺れている。

 冬吾は、悟った。


 彼女は冬吾の半分しか生きていない、普通の少女だ。

 それが今日、人を殺めた現実に押しつぶされそうになっている。


「無理すんなって。……あれは正当防衛だ。やらなきゃ、俺たちが死んでた」


 ベリーは唇を噛んで俯く。


「……わかってる。頭では。でも…………焼ける匂いが……まだ鼻に残ってるの。あいつの悲鳴も……忘れられない……っ」


 声が震え、涙がこぼれた。

 冬吾は静かに隣に腰を下ろす。


「ベリー。お前はよくやったよ。俺だって怖ぇよ。正直、今でも足ガクガクだし……吐きそうだ」


「……アンタでも……?」


「ああ。てか慣れてたら逆にヤベぇだろ」


 その言葉に、ベリーが小さく笑った。

 そして、涙がこぼれたまま冬吾の肩に額を預けた。


「……ちょっとだけ……泣いてもいい……?」


「ああ、好きなだけ泣け。泣いて、呼吸整えて……そんでまた一緒に立てばいい」


 ベリーはしばらく小さく震え、静かに涙を流した。

 やがて、呼吸が整い、目元を拭って立ち上がる。


「……ありがとう。……少しだけ、楽になった」


「ならよかった」


 少女はほんの少しだけ、力を取り戻した表情になっていた。


 夜風が二人の間を通り抜け、遠くで時計の針が刻を打つ。

 嵐のような一日が終わり、ゆっくりと、深夜が流れていく。


 翌朝。

 豪邸の中庭には澄んだ光が差し込み、昨日の血の匂いが嘘のような静けさが漂っていた。


 クラウドは早く目を覚ますと、ギルド石碑を通して、レゾナンスのメンバー以外で唯一信頼できる相手・コンドルへ連絡を取っていた。


「昨日、実は……僕たち……戦闘になって……」


 クラウドの声は震えていたが、隠さずに事実を全て話した。


 エッジとセブンスに襲われたこと。

 冬吾とベリーが撃破したこと。

 ランキングに灰色の名前が並んでいたこと。


 コンドルは沈黙の後、低い声で口を開く。


『実はな、クラウド。お前が言う前に、ある情報が届いてたんだ』


「情報……?」


『獅子王軍の内部に潜ってる仲間からだ。昨夜、エッジとセブンスが死んだって連絡が来た』


「っ……!」


 クラウドの背筋に悪寒が走る。


『犯人はわかってないようだが……獅子王軍は怒ってる。誰かが殺したってだけで、復讐に動くような連中だ。』


「僕達……狙われる……?」


『その可能性はある。クラウド……お前ら、本当に気をつけろ。この世界は、殺しが暴走する。復讐連鎖に巻き込まれたら終わりだ』


 そこで通信は切れた。


 クラウドはしばらく茫然と立ち尽くし、深呼吸を一つしてから仲間のもとへ戻る。


「どうしたの、クラウド?」


 冬吾が尋ねる。


「……獅子王軍、怒ってるって。 エッジとセブンスの死は、まだ犯人不明らしいけど……」


 その言葉に、ベリーとコルトの表情が強張った。


「また昨日みたいに突然来られたら、今度こそ全滅ね……」


 ベリーが小さく呟く。


 クラウドは拳を握りしめ、言った。


「だから……拠点を強化しよう。もう、好き勝手に襲わせたくない」


 その提案に、冬吾もうなずいた。


「確かに……壁も柵もスカスカだもんな。あいつらにバレて、本気で来たらヤベぇ」


「材木も石も足りないね……」


 クラウドが地図を開く。


「洞窟ダンジョンなら、壁材になる石や鉱石が拾える。みんなで行こう。まずは素材集めだ」


「ダンジョン……」


 コルトが不安そうに呟いた。ベリーは深呼吸し、昨日の泣き跡を隠すように髪を整えながら言う。


「……行くしかないわね。もう昨日みたいに命狙われるのは御免だもの」


 冬吾は短く言った。


「あぁ。俺たち全員、生き残るぞ」


 こうしてクラウドたちは、ギルド拠点強化のための第一歩。洞窟ダンジョンでの素材集めへ向かうことを決めた。


ーーー 第一章 冬吾の物語 完 ーーー

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