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サンドボックスウォーズ「44サーバー編」  作者: 黒瀬雷牙
第一章 冬吾の物語

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第七話 初めての「殺人」

 雷撃の余韻が消える前に、戦場が形成されていた。

 コルトは恐怖で脚が震え、後退すらできず地面に縫い止められたように固まっている。


「ひ……っ……!」


 クラウドもベリーも、無意識に急所だけは避けるような動きしかできない。

 それは訓練されたプレイヤーではなく、ただの高校生と普通の少女の本能だった。


(やばい……このままじゃ全員やられる)


 冬吾は、冷汗が背中を伝うのを感じながら悟った。


 ――この敵は、躊躇しない。


 エッジは斧を片手で軽々と担ぎ、笑っている。

 その目は、殺すことにすら楽しみを見出している壊れた光を帯びていた。


 冬吾の脳裏に、ジムでの最初のスパーリングがよみがえる。


 慣れない頃、攻撃はまるで当たらなかった。

 ミット練習の距離感や、対人慣れした相手の動きもあったが、本質はそこじゃない。


 人を殴ることに、抵抗があったのだ。


(殴るだけでも怖いのに……()()なんて……次元が違う)


 拳一つ振るうのにも覚悟がいる。

 まして、刃物で刺すなど、人として越えてはいけない線だ。


 しかし目の前のエッジはその線を軽やかに踏み越え、笑っている。


(……壊れてやがる)


 冬吾は強く奥歯を噛みしめた。


 コルトは震えて動けず、クラウドとベリーも致命傷を恐れて退くような動きしかできない。

 このままでは、全員殺される。


(俺が……やらなきゃ……!)


 鼓動が爆音のように響き、掌が汗で湿る。

 怖い。

 だが、逃げれば誰かが死ぬ。


 冬吾は両足に力を込め、踏み込んだ。


「おらァッ!!」


 エッジが反応し、巨大な斧を振り下ろす。

 風を裂く重い音。

 もし当たれば、冬吾は真っ二つだ。


 だが――


(見えるッ!)


 冬吾の眼が異常なほど冴えた。

 キックボクシングで鍛えた動体視力と、回避アップ装備の効果が、恐怖で加速された神経と重なり合い、斧の軌道がスローモーションのように見えた。


 身体が勝手に横へ跳ねる。

 刃は髪の先をかすめ、地面へ深く突き刺さった。


「は……?」


 エッジの隙が生まれた。


 冬吾はその腹へ、悪魔殺しのナイフ を、迷わず突き刺す。


 ブシュッ。


「……ッが、は……ッ!」


 エッジが短く声をもらし、紅い液体を口からぶちまける。


(刺した……俺……人を……)


 冬吾の手が震える。

 当然人を刺したことなどない。

 だが、確かにリアルだと感じる、嫌なほどの手ごたえ。


 ここで止まれば自分が殺される。


 エッジの腕が僅かに動く、反撃するつもりだ。


(躊躇したら俺が死ぬ!!)


 冬吾は自分を叱咤し、喉が裂けるほど叫んだ。


「――腹括れや一ノ瀬冬吾!!!」


 ナイフを握る拳に力を込め、捻り上げた。


「ぎゃああああああッ!!」


 肉が裂ける嫌な音。

 エッジの体が痙攣し、膝から崩れ落ちる。


 表示が出る。


【システム】《エッジ 撃破》


 冬吾の握るナイフから、温かい液体が滴り落ちる。

 それが「血」だと認識した瞬間、震えが全身を駆け抜けた。


 エッジの死体が地面に崩れ落ちた直後だった。

 仲間を殺された怒りか、セブンスの表情が歪む。


「この野郎ォ、よくもエッジをッ!!」


 魔導士の杖が雷光をまとい、刺すような魔力が空気を震わせる。

 冬吾は血のついたナイフを握ったまま立ち尽くす。


(まずい……反応できねぇ……!)


 セブンスの詠唱がゼロ距離で炸裂した。


「ライトニング・ランス!!」


 鋭い雷槍が、冬吾の胸めがけ直進する。


「……っ、だめ!!」


 叫び声と同時に、コルトの身体が勝手に動いた。

 恐怖で震えたまま、両手を前に突き出す。


「マ、マジックバリアッ!!」


 ――ガンッ!!!


 雷槍が透明な壁に激突し、火花を散らす。

 コルトの足は震え、バリアがきしむ。


「ひっ……ひぃっ……!」


「バリア……維持してる……!? コルトさん……!」


 クラウドが驚くより早く、セブンスが二撃目を構える。


「ちっ、邪魔だよ小娘が!!」


 杖に再び電流が走り、唸りをあげる。


 その瞬間、冬吾の叫びが全員を揺さぶった。


「全員動けッ! 死んじまうぞ!!」


 その声に呼応するように、唯一、冬吾の姿を見て状況を理解した者がいた。


 ベリーだ。


「借りは返すわよ電気野朗!!」


 普段冷たい彼女の声が、怒りで震えた。

 眼の奥に火が灯り、指先に赤い魔力が集まる。


 迷いはない。


 冬吾が見せた覚悟が、彼女の胸を撃ち抜いていた。


「燃え尽きろッ!!!」


 ベリーは、溜めもなく、躊躇もなく、魔法を解き放つ。


「ファイアボールッ!!!」


 轟音とともに炎の塊が弾丸のように飛び、

 セブンスの顔面に直撃した。


「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!」


 悲鳴が獣のように響き、次の瞬間には黒煙に包まれていた。

 崩れ落ちた時には、もう形がわからないほど黒焦げだった。


 表示が浮かぶ。


【システム】《セブンス 撃破》


 こうして、戦いは終わった。

 冬吾の肩が大きく揺れた。

 呼吸が、喉で引っ掛かるように荒い。


(殺した……本当に……人を……)


 手の震えが止まらない。


 ベリーも同じだった。

 ファイアボールで焼き尽くした自分の手を見つめ、血の気が引いていく。


「……私……やっちゃった……殺し……」


 唇が青ざめ、視線が泳ぐ。


「ベリーさん……冬吾さん……」


 クラウドが震える声で二人を見る。


「二人がやらなきゃ、本当に……死んでたのは僕らだった。僕なにも……なにもできなかった……」


 拳を握りしめ、悔しさに顔をゆがめる。

 冬吾はクラウドの肩に手を置く。


「気にすんな、動けねぇのが普通だ……俺だって……正直、今にも吐きそうだ……」


 ベリーも小さく震えながら呟く。


「でも……私達がしなきゃ……全員死んでた……」


 その言葉は事実であり、自分自身の胸に突き刺さっていた。


 静寂を破ったのは、突然のシステム音だった。


 ピロン。


 全員の視界に、サーバーランキングの更新通知が表示される。


「……嘘だろ」


 冬吾が目を疑う。


 40位・同率5人。

 総合力0のユーザー名が、灰色で増えていた。


 ぽん酢

 ガッキー

 Lemon

 エッジ

 セブンス


 五つの名前が、同じ灰色。

 同じ「0」で並んでいた。


「これ……まさか……俺たちが殺したから……?」


 ベリーの声が震える。

 クラウドも唇を噛んだ。


「……灰色の名前……0の総合力……あれは……死亡したプレイヤーの……()()なんじゃ……」


 誰も、否定できなかった。


 暗い風がギルド拠点を吹き抜けた。

 この世界の残酷さが、また一つ、確かな形で突きつけられた瞬間だった。

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