第六話 殺人集団
クラウドが静かにメニューを開き、個人メッセージの送信画面に指を置く。
宛先は、この世界から抜け出しませんか? のギルマス、コンドルだ。
「……よし、送信」
少しの沈黙の後、返信が届く。
しかし、その文章には異様なまでの警戒心がにじんでいた。
「誰だ、何が目的だ」
クラウドは落ち着いて返す。
「僕はレゾナンスのクラウドです。話を聞いてほしいだけです。」
緊張の糸がゆるむまで、数回のやり取りを経る。
やがてコンドルは、冷静さを取り戻した。
「わかった。聞く。だが、慎重に。ここは……危険な世界だ」
クラウドは深く頷く。
「その危険について、教えてください」
コンドルは沈黙の後、淡々と話し始めた。
「まず、ランキングを見ろ」
指示通り確認すると、確かに人数が変わっていた。
42位が同率で3人。
ぽん酢、ガッキー、Lemon。
灰色に表示されている。
そしてよく見ると、3人の総合力は、なんと0だった。ゲームを始めた直後でも通常は10はある数値だ。
四人の間に、重苦しい空気が流れる。
「これは……?」
冬吾が息を詰める。
コンドルの文章は続く。
「このサーバーは、リスポーンできない。死んだら、死んだままだ。僧侶の回復魔法も効かない」
一瞬、全員の呼吸が止まる。
「死ぬ、ってことは……本当に……?」
クラウドは小さく頷く。
死が本当の死なのか、ログアウトなのか、それすら不明だと付け加えられていた。
冬吾、ベリー、コルト、クラウド――
四人の空気は一変した。
緊張と恐怖が肌を刺す。
さらにコンドルは警告を続ける。
「獅子王軍には気をつけろ。あいつらは、この世界の死が本物の可能性があるのに平気で人を殺す」
その一言で、四人の胸に重い影が落ちる。
ただのゲームだと思っていた世界の色が、深く、濃く変わった瞬間だった。
クラウドは震える指で、再びメッセージを打ち込んだ。
「……どういうことなんですか? なぜ総合力が0に……?」
数秒の沈黙。
そして、重く、冷えるような返信が届いた。
「ガッキーとLemonは俺たちの仲間だった。だが、殺された」
その言葉に、ベリーが小さく息を呑む。
コルトは唇を押さえた。
「殺されたって……プレイヤーに、ですか?」
クラウドが恐る恐る尋ねる。
「そうだ。獅子王軍に」
その名が出た瞬間、空気がさらに冷える。
コンドルは続ける。
「奴らは、この世界の死が本物の可能性があるのに……平気で人を殺す。いや、むしろ楽しんでいる」
コンドルの文面から、怒りと恐怖が混じったような、押し殺した感情が伝わってきた。
「獅子王軍はギルド拠点を襲い、力の弱いユーザーを捕まえて……奴隷として扱っている。資材を運ばせ、建築をさせ、逆らえば見せしめに殺す」
冬吾は顔をしかめ、拳を握りしめた。
(ゲームで……そんな狂った真似を……!?)
ベリーは震える声を出す。
「そんなの……ただの犯罪者集団じゃない……」
コルトは泣きそうな声で言った。
「わ、私が襲われたのも……きっと……」
クラウドは唇を噛みながら、画面を睨む。
「その……奪われた人たちは……どうなるんですか?」
しばしの沈黙。
そして返ってきたのは、残酷すぎる答えだった。
「戻ってこない。生きてるのか……死んだのか……わからない」
そのメッセージを読んだ瞬間、四人の背筋がぞくりと震えた。
ここはただのゲームではない。
笑いながら遊んでいた昨日までとは、もう違う。
クラウドが息を整え、最後にメッセージを打った。
「……教えてくれて、ありがとうございます。僕たちも気をつけます」
コンドルが最後に一言だけ返した。
「頼む。無謀なことはするな。……特に、獅子王軍には近づくな」
通信が途切れる。
ギルド拠点の室内に、重く沈黙が落ちた。
冬吾たち四人は、その場で言葉を失った。
ただひとつ確かなのは、44サーバーは、遊び場ではないということだった。
拠点を出ると、冬吾が固い声で言う。
「獅子王軍に対抗するには、仲間を増やして……俺たちも強くならないと」
「セカヌケの人との連携も必要ね。小さなギルドでも協力すれば、大きな力になるわ」
「セカヌケ……?」
冬吾が首をかしげると、ベリーはいつも通り冷たく答えた。
「この世界から抜け出しませんか?の略よ」
――その瞬間だった。
「!! マジックバリアッ!」
コルトが叫び、ベリーの前に光の盾を展開。
次の瞬間、上空から雷撃が炸裂する。
バリアが砕け散り、焦げた匂いが風に乗った。
「はっ!?なんだ!!?」
「……っち。相変わらず勘のいい女だな」
声の方向へ振り向くと、薄闇の中から二つの影が現れる。
一人は、コルトを襲った男・エッジ。
そしてその隣には、黒衣をまとった魔導士・セブンス。
エッジが嗤いながら刃を向ける。
「探したぜ、コルト。あと俺に炎をぶつけたクソガキ」
セブンスが冷たい瞳で冬吾たちを見下ろす。
「獅子王軍の敵は……その場で処理する」
静寂が走る。
戦いの幕は、もう避けられなかった。




