表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/52

最終話 さよならの形、バロンとリサージュ

 ──暗い。


 光も影も、音すらない。

 ただ、無限に広がる静寂の海のような空間だった。


 その中心に、ぽつりとひとり、座り込む影があった。


 バロン。


 首を刎ねられ、肉体は崩壊し、意識すら消滅へ向かっている。

 輪郭が溶け、何度も途切れながら、それでも彼はそこにいた。


「……ああ、クソ……またここかよ」


 自嘲の笑い。

 だが声はもう震えていた。


「結局……嫌われて終わりか。現実でも……ゲームでも……俺は……」


 手を見つめる。そこにあったはずの力も、熱も、もう残っていない。


「俺さ……本当は……誰かと遊びたかったんだよ。でも……うまくできなくて……怖くて……気づいたら全部壊してた……」


 闇がにじむ。

 それは涙だった。


「どこで間違えたんだろうな。少しでも違ってたら……あいつらみたいに生きられたのかな……

 俺だって……ああなりたかったよ……!」


 涙が落ちて消える。

 バロンの身体はすでに、消滅を始めていた。


「──だったら」


 柔らかい声が、背後から彼を包んだ。


 次の瞬間、温もりが背中に触れた。


「わたしが……抱きしめてあげる」


「……リサ……ージュ?」


 振り返ると、そこに形なきはずのリサージュがいた。彼女もまた肉体を失い、霧のように揺らいでいる。


 それでも、彼女は確かにそこにいた。バロンに寄り添い、腕を回し、胸に顔を埋めていた。


「間違えてなんかいないよ……バロン」


「……違う。ぜんぶ俺のせいだ」


「そんなことない。あなたはただ……ひとりぼっちだっただけ」


 リサージュの声は震えていた。


「あなたが誰かを傷つけたのは……愛し方を知らなかったから。助けを求める方法を、誰も教えてくれなかったから。ねぇ……責めないで。そんなふうに自分を押しつぶさないで」


「……でも、俺は──」


「あなたが望んだなら……あの七人のように生きる未来だって、きっとあった。もし誰か一人でも、あなたの手を取っていたら……あなたは笑えてた」


 バロンが顔を歪める。


「……そんなもしもを言ったって……もう遅ぇよ……」


「遅くなんてないよ」


 リサージュは、溶けかけた手で彼の涙を拭った。


「だって……ここにいる。最後の瞬間……あなたはひとりじゃない」


 バロンの目が、初めて弱い光を帯びる。


「……リサージュ……」


「あなたを愛したわたしも、わたしを選んでくれたあなたも……間違いなんかじゃない」


 ふたりの身体はもう霞むように薄い。

 触れればほどけてしまいそうなほど脆い。


 ただ、心だけが確かに触れ合っていた。


 二人の身体はもう、光の粒となって空間に溶け始めていた。

 輪郭が揺れ、触れ合うたびに指先が崩れ、それでも二人は離れなかった。


 バロンは震える手で、リサージュの頬に触れた。


「……リサージュ」


「うん……聞いてるよ、バロン」


 声が震えている。

 もう時間がないことを、お互いわかっていた。


「俺……お前に……言いたいことがあるんだ」


 言葉がこぼれるように、零れた。


「俺と……出会ってくれて……ありがとう」


 リサージュの瞳が揺れた。


「俺と……いてくれて……ありがとう……

 俺なんかと一緒にいてくれて……

 見捨てねぇで……そばにいてくれて……

 本当に……ありがとう……」


 抱きしめる腕が細く細く、光になって消えていく。

 リサージュはバロンの胸に顔を押しつけ、小さく首を振った。


「違うよ……バロン。

 わたしのほうこそ……ありがとう」


 溢れる涙が、彼の胸に落ちて光へ溶けていく。


「私と会ってくれて……ありがとう。

 私を選んでくれて……ありがとう……

 そして……生まれてきてくれて……ありがとう」


「……リサージュ……」


「あなたという存在に……出会えてよかった……」


 二人は互いの言葉にすがるように、何度も何度も同じ言葉を繰り返した。


「リサージュ……ありがとう……」

「バロン……ありがとう……」


「……リサージュ……」

「大丈夫……私はここにいるよ」


「リサージュ……」

「ずっといるよ……あなたのそばに……」


「リサ……ージュ……」

「大丈夫……バロン……怖くないよ……」


 バロンの声が、細く、遠くなる。

 リサージュは震える両手で、バロンの頬を挟んだ。


「バロン。

 大丈夫……私はここにいる……ずっと……」


「……リ……サージュ……」


 それが、彼の最後の言葉だった。


 バロンの身体が光となり、静かに、音もなく、彼女の腕の中でほどけていく。


 リサージュは涙をこぼしながら、その消えゆく光を抱きしめ続けた。


「ありがとう……バロン……

 あなたと過ごした時間……全部、大切だった……」


 彼の光が完全に消えたあとも、彼女はそっと微笑んだ。


「大丈夫……バロン……

 最後まで……あなたはひとりじゃなかったよ」


 その言葉を残して、リサージュ自身もまた、静かな光の粒となって闇に溶けていった。


ーーー サンドボックスウォーズ「シアワセのサーバー」 完 ーーー

 本編『サンドボックスウォーズ』が“ゲームという舞台を通じて、プレイヤーたちの現実の葛藤や人間ドラマを描く物語”であるのに対し、

 この外伝では思いきり舵を切って、“異世界転移×ダークファンタジー”というまったく別の世界観に挑みました。


 ゲームでは死んでも復活できる世界だからこそ描けなかった「取り返しのつかない喪失」。

 それをどう表現するかは、書いている自分自身にとっても大きな課題であり、挑戦でした。


 外伝で仲間たちが次々と倒れていく中で、

 “ゲームでは軽く扱われる死”を現実的に、そして重く描くことで、

 生き残った者たちの 決断・勇気・罪悪感・友情・愛情 がより鮮明に浮かび上がる。

 そんな、人の心に触れる物語を目指しました。


 結果としてこの外伝は、

 誰かと繋がっていたいと願う者たちの“友情と愛情の王道シリアス” と言えるものになったのではないかと思っています。


 冬吾たち七人が死線をくぐり抜けて手にした“第二の人生”。

 そして、バロンとリサージュが最後に見せた、誰よりも純粋な「共にいたい」という想い。

 それらが少しでも読んでくださった方の胸に残れば、本当に幸いです。


 最後まで読んでくださり、ありがとうございました。


 よろしければ、本編『サンドボックスウォーズ』もぜひご覧ください。m(_ _)m


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ