第四十四話 第二の人生、楽しみますか
奈落を抜けた七人を迎えたのは、久しく感じていなかった外の空気だった。
空は高く、風は柔らかい。
あれほど荒れ狂っていた黒霧は完全に消え、世界はようやく静けさを取り戻していた。
「……終わったんだよな」
ミサトが呟くと、グレンデルが肩を回しながら豪快に笑う。
「終わったともよ! さぁ、しばらくは寝かせてくれ!! 酒樽抱えて寝るからな!!」
「グレンデル、まずは治療だよ……」
コルトが苦笑しながら手当てを始める。
「は!?酒作れるのか!!?」
「知らんかったのか冬吾?教えてやるから朝まで付き合え!!」
「わたしは、しばらく料理作りたい!」
ベリーがぱあっと顔を輝かせる。
「ずっと戦闘食ばっかでつまらなかったし、今日はパンケーキ10段重ね!」
「お前……そんな元気残ってたのかよ」
レンが呆れつつも笑う。
「ネロは?」
冬吾が尋ねると、ネロは空を見上げて目を細めた。
「僕は……エースさんが好きだった場所、また作り直す」
「いいね。それ、手伝う」
ミサトが頷く。
レンはさっそく拠点の見回りに走り出し、グレンデルはベリーの腕を引っ張って食料庫へ消え、ネロとミサトは崩れた設備を直し始めた。
生者の生活が、ゆっくりと息を吹き返していく。
そんな中、冬吾は一人、拠点裏の丘へ歩いていった。
草原の真ん中に、ぽつんと立つ一本の大樹。
そこで冬吾は土を掘り、静かに木の板を立てていく。
──ブライト
──ロイド
──エース
──マキシム
──コンドル
──リュウセイ
──サオリん
──トッシー
──クラウド
名前の並んだ小さな墓標が、風に揺れた。
「死んじまってるやつもいるけどさ」
冬吾はしゃがみ、土を整えながら静かに続ける。
「でも、ここにはいたんだよ。確かに一緒に笑って、戦って……死んでいった。俺たちの人生の中に、ちゃんといたんだ」
風が吹き抜け、草を揺らす。
「だからさ──」
冬吾は微笑んで、墓標の列を一つ一つ見渡した。
「第二の人生。
……楽しみますか、みんな」
振り返ると、仲間たちが拠点に集まっていた。
レンが鍋を振り回し、グレンデルが酒を開け、ベリーが粉まみれでホットケーキを焼き、ミサトが笑いながら叱り、ネロが静かに椅子を並べている。
その光景は、失われたものの重さを抱えながらも、確かに未来へ向かう者たちの姿だった。
「おーい冬吾! こっち料理できたぞー!」
「パンケーキ30段になった!!」
「倒れるぞそれは!!」
冬吾は笑いながら丘を降りていく。
戦いは終わった。
絶望も怒りも喪失もあった。
それでも彼らは、また歩き出せる。
新しい日々へ。
仲間の記憶とともに。
第二の人生を、心から楽しむために。
ーーー 最終章 終わりに向かう物語 完 ーーー




